映画化希望

--年--月--日

■スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2008年01月22日

■その2
 セバスチャンの座っていたテーブルから回れ右をして20歩程歩いたところに、庭に通じる大きな窓がある。その窓を開けて外に出ると草花の香りがする小さな庭があった。
 セバスチャンはその庭をとても気に入っていた。
 その理由のひとつめは家の中とは匂いが違って、やわらかい草花の香りがする事。セバスチャンはこの匂いが好きだった。
 そしてふたつめは、庭で朝の体操をしていると、近所のトムおじさんが話しかけてきてくる事だった。そんな理由もあってセバスチャンは朝の体操を絶対に欠かさなかった。そして、やっぱり今日もトムおじさんが話しかけてきた。
「おはようセバスチャン。今日はいい天気だね」
 それはちょうど、セバスチャンが足を屈伸している時だった。セバスチャンはトムおじさんが話しかけてきた事に気付き、足をピタっと止めて挨拶した。
「おはようトムおじさん。今日はいい天気だよ」
 トムおじさんに挨拶を済ますと、セバスチャンは朝の体操を再開した。それを見ていたトムおじさんは、体操っていうよりもヘンテコなダンスだなと思ったけど、その事はセバスチャンには言わず、楽しそうに朝の体操の様子を見ていた。
 トムおじさんはセバスチャンが生まれるずっと前から家の近所に住んでいる人だった。外見は小太りで背が低く、顔はやさしそうで、年齢は60歳くらいに見えた。短い足でヒョコヒョコ歩く姿がなんともユーモラスで、誰からでも好かれそうな楽しそうなおじさんだった。
 しかし、マリアによるとトムおじさんは1匹の猫と暮らしていて、結婚はしていないらしい。セバスチャンが「なんで結婚してないの?」と尋ねたら、マリアは「いい人なんだけど出会いがないのかしら」と答えていた。
「トムおじさんは今日もパンを買いにいくの?」
 セバスチャンにそう言われて、朝の体操を楽しそうに見ていたトムおじさんはハッとした。ヘンテコなダンスと思っていた事が知られるとまずいので、すぐに返事をした。
「ああ。そうだよ。あそこのパンは最高だからね。そういや、マイケル先生はまだ来ていないのかい?」
 トムおじさんの朝の日課は、近所のマザーズベーカリーに焼きたてパンを買いに行くだった。こうして毎日のようにセバスチャンと会うのは、その時間がちょうど重なっていた為だった。
「えーと・・・ドクターマイケルはもうちょっとしたら来ると思うよ」
「そうか。彼はいつも時間どおりに来るもんな」
 セバスチャンはにっこりと笑った。
「うん。ドクターマイケルはロボットみたいに正確なんだって、お母さんが言ってた」
 トムおじさんは話すととても気さくでいい人だけど、積極的に人に話しかけるタイプじゃない。セバスチャンとこうして毎朝話をしているのは、セバスチャンは普通の子供と少し違っていたからだった。
 トムおじさんが初めてセバスチャンの事を知った時、とても不憫だと思った。恐らくほとんどの人がそう思うだろう。でも、話をしてみるととても明るく元気な子供で、そんなふうにセバスチャンを見ていた自分を少し恥ずかしく思った。不憫だなんて思っているのは周りの人達だけで、それは本人にとって当たり前の事だったからだ。
それと、トムおじさんはセバスチャンの事を少し心配しているところがあった。こんないい子に何かあったらと常に思っていた。
「セバスチャン。私との約束は覚えているかい?」
「うん。家の外には一人で出ちゃダメ。覚えているよ。お母さんにも言われるもん」
 トムおじさんはにっこり笑った。
「そうか。セバスチャンは偉いな。いつか庭の外に出られたらいいのにな」
 セバスチャンは楽しそうに言った。
「うん。そしたら僕は『ウミ』っていうのに行ってみたいんだ」
 トムおじさんは少し眉間にシワを寄せて、セバスチャンに聞いた。
「海?君は海が好きなのかい?」
 セバスチャンは目を輝かせて話し出した。
「うん。ドクターマイケルが言っていたよ。『チキュウ』のほとんどは『ウミ』なんだって。『ウミ』はとても大きくて、僕の家よりもずっとずっと広いんだって。『ウミ』にいけば少し自分の事がわかると言ってたよ。僕にはよく意味がわからなかったけど、それでも行ってみたいんだ」
「そうか、マイケル先生が言うんだったら間違いないな」
「うん。間違いない。ちなみにドクターマイケルをマイケル先生って呼ぶと怒っちゃうよ。私はドクターだって。」
 トムおじさんは思わず笑ってしまった。こんな小さい子供に「ちなみに」と言われちゃったからだ。
「ははは。そうだね。今度から私も彼をドクターと呼ばないと」
 トムおじさんはにこやかに笑いながら、目の前の楽しそうなセバスチャンを見ていた。だけど、セバスチャンの笑顔があまりにも楽しそうなので、逆に悲しい感情がよぎってきた。そして、言ってもしょうがない事だけど、ついつい口から零れ落ちてしまった。
「君も目が見えるといいのにな」
 セバスチャンは目が見えなかった。生まれてから一度も。この世界を、この『チキュウ』を見たことがなかった。
スポンサーサイト

■コメント

■コメありがとうございます! [ベイビーラブ]

はじめまして、こんにちわ。
小説読んで頂きありがとうございますi-179
ちょくちょく私も読ませてもらっていますi-197
よく描けてますよ、うまいですi-233
これから仲良くしてもらえれば幸いですi-260

■コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

<< その3 | Blog TOP | その1 >>

プロフィール

南国特産

Author:南国特産

初めて小説を書きました。
もの凄くヘタですが、もしよろしければ読んでみてください。

感想等、お待ちしています。

最近のトラックバック

ブログランキング

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。