映画化希望
2008年05月

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2008年05月12日

■その14
 その日、セバスチャンはベットからバーンと飛び起きた。今日は待ちに待った、ジェシカのお誕生日だったからだ。いつもなら起きてからしばらくは頭がボーっとしているのに、この日ばかりは起きた瞬間から目が冴えていて、なんだかやる気に満ち溢れていた。そして、もう一人やる気に満ち溢れてる人がいた。
 マリアは普通の休みの日なら少し遅く起きるのに、今日は特別で、セバスチャンが起きてきた頃には朝食の準備を終わらせて、外に出かけていける格好に着替えていた。
 セバスチャンとマリアは朝の挨拶をした後で、急いで朝食を食べ終えると、ジェシカのお誕生日を成功させる為の「作戦会議」をした。
「いい、セバスチャン。私は今から、ジェシカのプレゼントを買いにいくから。セバスチャンはプレゼントのメッセージを考えていてね」
「うん。わかった。任せて」
 本当は前もってプレゼントを準備しておけばよかったけど、マリアは仕事が忙しくて買いに行く暇がなかった。しかたがないのでプレゼントは当日に買いに行く事にして、その時間も考えてお誕生日会は夕方からする予定になっていた。
「それで、私は帰ってきたらお料理を作らないといけないから。セバスチャンはその間、お誕生日会で流す音楽を考えていてね」
「うん。でも、何がいいかな?」
「セバスチャンの好きな音楽でいいと思うわ。でも、楽しい音楽じゃないとダメよ。楽しいお誕生日会にしないといけないんだから」
 セバスチャンは少し考えた。
「うん。僕が好きで楽しい音楽かぁ。・・・何がいいかな?」
マリアは楽しそうに笑った。
「ふふ。時間はまだいっぱいあるから、考えてみてね」
「うん。考えてみるよ」
 セバスチャンは思い出したかのようにマリアに聞いた。
「お母さん。今日のごはんは覚えてる?」
 マリアは笑いながら答えた。
「もちろん。覚えてるわ。前に2人で考えた、ジェシカの大好物オンパレードね」
「うん。そうだよ。オンパレード!」
「まかせてて。しっかり覚えてるから。それから、プレゼントもちゃんと買って帰るからね」
 セバスチャンは腕を組みながら、何故か得意げに言った。
「うん。しっかり頼んだよ」
 セバスチャンの仕草が面白くてマリアは笑ってしまった。小さな8歳の子供に心配された上、さらに期待されてしまった。今日一日がんばろうとマリアは思った。
 マリアがふと時計を見ると、思っていたよりも時間が進んでいた。
「じゃあ。行って来るから。一人でお留守番になるけど。危ないことはしちゃだめよ」
 マリアは慌てた様子で、テーブルの上の食器を片付けだした。
「今日一日がんばろうね」
「うん」
 マリアが家を出て行ってから、セバスチャンは一人でジェシカへのメッセージを考えていた。セバスチャンにとって誰かにプレゼントを渡す事は初めての体験だったので、なかなかいいメッセージは思い浮かばなくて、「難しいなー」と何度も声を漏らした。さっきは簡単に「わかった」なんて言っちゃったけど、メッセージを考える事がこんなに難しい事だなんて思っていなかった。
 最初、セバスチャンはジェシカが喜びそうなメッセージを考えていた。でも、全然思いつかなかった。しばらく考えて、そうじゃなくて、自分がジェシカに一番伝えたい事にしようと思った。そうすると、セバスチャンの頭にピーンと何かが閃いて、一番素直な気持ちを思いついた。

 マリアはお昼前に家に戻って来た。手には料理の材料と、プレゼントを抱えていた。荷物をテーブルの上に置くと、奥の部屋にいるセバスチャンに聞こえるように言った。
「ただいま。セバスチャン元気にしてた?」
 セバスチャンはマリアの方を向いて嬉しそうに返事した。
「おかえり。ジェシカへのメッセージ思いついたよ」
 マリアはイスに掛けてあった、エプロンに着替えながら言った。
「うん。後で教えてね。メッセージカードに書くから。後、音楽も決まったら教えてね」
「・・・それは、今考え中」
 マリアは楽しそうに笑った。
「わかったわ。じっくり考えてね」
 それから、マリアはテーブルの上に今日の料理の材料を並べて、腰に両手を当て「よーし。やるかー」と言った後、料理に取り掛かった。セバスチャンは、音楽の事を考えながら、ジェシカが喜んでいる声が聞けるといいなと思っていた。
 夕方になったら、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。セバスチャンはチャイムの音に気付いて、興奮しながら言った。
「お母さん。ジェシカが来たよ」
 マリアも気付いていた。
「うん。じゃあ、2人でお出迎えしよう。今日はジェシカが主役だからね」
 セバスチャンとマリアは玄関に移動して、ドアを開けた。するとそこには、少し恥ずかしそうな様子のジェシカが立っていた。マリアはジェシカを一目見て、思わず「まあ」と微笑んだ。
 今日のジェシカは、普段の活発なイメージと違って、とても女の子らしかった。髪を綺麗にセットして、前髪をお花のヘアピンで止めていた。洋服は、白色のフリルシャツと、女の子らしいスカートに、赤色のエナメルの靴を履いていて、とても可愛らしく、似合っていた。
 ジェシカは今の自分の格好が少し恥ずかしいみたいで、少しうつむきながら「こんにちは」と挨拶をした。
「いらっしゃい。待ってたわよ」
 マリアはそう言って、家の中に案内すると、隣にいたセバスチャンに、「今日のジェシカはとってもかわいいよ」と耳打ちしてあげた。セバスチャンにはその姿が見えなかったけど、もし見えていたら顔が真っ赤になっていたかもしれない。

 セバスチャンの家の中は、普段と少し違っていた。いつもは静かな部屋の中に、楽しそうな音楽が鳴り響いていて、壁にはかわいい飾り付けがしてあった。
「ジェシカの席はここね」
 マリアはジェシカをリビングに案内すると、テーブルの前のイスに座らせた。そのイスはジーンおばさんに借りてきたもので、ジェシカには少し大きかったけど、座ると王様になった気分だった。テーブルの上には青いチェックのテーブルクロスが敷いてあって、その上には3人分の食器が準備されていた。
 マリアはジェシカの隣にセバスチャンを座らせて「もうちょっと待っててね。すぐに準備するから」と言ってキッチンに向かった。
 セバスチャンは隣にいるジェシカに楽しそうに話しかけた。
「ジェシカ。お母さんの料理はとってもおいしいよ。しかも今日はジェシカの好きな物ばっかりだよ。2人で考えたんだ」
 ジェシカはにっこり笑った。
「うん。ありがとうセバスチャン。すごく楽しみ」
「うん。楽しみにしててね。それからね、今流れてる音楽も僕が考えたんだよ。僕の仕事なんだって」
 ジェシカは部屋に流れている音楽に耳を傾けた。
「ふーん。セバスチャンは音楽が好きなの?」
「うん。なんとなく。いろいろな音が聞こえるから」
「いろいろな音?」
「うん。聞こえない?ピロピロとか、キーンとか、ドーンとか」
 確かにセバスチャンの言うように、部屋の中の音楽は色々な楽器の音が交じり合っていた。その中にはジェシカが聞いたことのある音もあったし、初めて聞く音もあった。
「僕はこの曲がなんとなく好きなんだ」
 ジェシカ少し不思議そうな顔をした。
「なんとなくなの?」
「うん。なんとなく。でも気に入らないところもあるよ。グーって音が聞こえるでしょ。あれが嫌いなんだ」
「グー?」
 ジェシカはセバスチャンの言っている意味がわからなかった。耳をすませてもグーって音なんか聞こえなかった。
「グーって音なんか聞こえないよ」
 セバスチャンは困った顔をした。
「ほんと?お母さんに言っても、聞こえないって言ってた。僕だけしか聞こえないのかな」
 ジェシカも困った顔をした。
「不思議だね」
 セバスチャンは腕を組みながら言った。
「うん。まったく。不思議なことばっかりだよ」
 実はセバスチャンの言っているのはノイズの事で、部屋に流れている音楽は音源が古くて、ノイズが少し多かった。といっても普通は聞こえない程度だけど、セバスチャンはしっかりそれを聞き取っていた。それはつまり2人とも気付いていないけど、セバスチャンの耳が非常に良いという事だった。
 ジェシカは言った。
「それにしても、この曲変な歌だね?」
 セバスチャンは少し驚いたような顔をした。
「そうかな?いままで思ったことないけど・・・」

 ハロー、ハロー、また出会った♪
 ハロー、ハロー、何回目♪
 ハロー、ハロー、忘れてしまえば♪
 ハロー、ハロー、思い出せる♪
 ハロー、ハロー、忘れなければ♪
 ハロー、ハロー、思い出せない♪

「絶対、変な歌だよ。でも、気に入ったよ。ハロー、ハロー♪って覚えちゃった」
 ジェシカは楽しそうにアハハと笑った。すると、セバスチャンが歌い始めた。
「ハロー、ハロー、またであたー♪」
 セバスチャンが楽しそうなので、ジェシカも一緒に歌い始めた。
「ハロー、ハロー、なんかいめー♪」
 2人はおかしくなって、一緒に大笑いした。
 マリアが料理の準備を終えてキッチンから戻ってくると、リビングではセバスチャンとジェシカがヘンテコな歌を楽しそうに歌っていた。
「あら楽しそうね。今から料理を持ってくるからね」
 マリアはキッチンからテーブルの上に次々と料理を持ってきた。香ばしい焼き目のついたハンバーグ、モクモクと湯気のでているクリームシチュー、鮮やかな赤色をしているチキンライス、さらに、真っ赤なイチゴがいっぱいのったバースデーケーキが、他の料理に囲まれるようにテーブルの真ん中に置かれた。
 テーブルの上はあっという間に料理でいっぱいになった。ジェシカはそれを見て、思わず「おいしそー」と喜んだ。セバスチャンもお腹がグーと鳴って、急かすようにマリアに言った。
「早く食べようよー」
 セバスチャンに言われてマリアは自分のイスに急いで座った。そして、2人の様子を見てから、にっこり笑って言った。
「おまたせ。じゃあ食べましょう」
 セバスチャンとジェシカはそれを聞いて嬉しそうに「ハーイ」と返事をした。

 マリアの料理は好評だった。ジェシカは何回も「おいしい、おいしい」と繰り返した。本当においしかったし、最近ジェシカは一人で料理を食べる事が多かったので、みんなで食べる料理は格別だった。ジェシカが喜んでいるようなので、セバスチャンもマリアも嬉しかった。2人で一緒にがんばった甲斐があったと思った。
 セバスチャンとジェシカが一緒に料理を食べるのは初めての事だった。ジェシカはセバスチャンがちゃんと食べれるのか心配していたけど、セバスチャンはまるで目が見えているみたいに、器用に口の中にひょいひょいと料理を運んでいた。だけど、アツアツのクリームシチューだけは少し怖いみたいで、少しずつ恐る恐る食べていた。
 ジェシカは料理を食べながら、テレビの上に置いてある写真立てに気付いた。その写真にはマリアに似ている女の人と、見たことが無い男の人が写っていた。ジェシカは写真立てを指差しながらマリアに聞いた。
「あのテレビの上の写真は誰?」
 マリアは写真立てを見ながら答えた。
「あれは若い頃の私と、セバスチャンのお父さんよ。お父さんはいなくなっちゃたけど、いつもあそこに飾って見守ってもらっているの」
 ジェシカは写真をじっと見ながら言った。
「セバスチャンのお父さんなの?」
 マリアはコクっと頷いた。
「そっか。セバスチャンはお父さんがいなくなっちゃたんだよね」
 ジェシカがそう言うと、セバスチャンが話し出した。
「うん。僕はあんまり覚えてないけど。優しいお父さんだった気がするよ」
 写真に写っていたセバスチャンのお父さんは体つきがガッシリとした男らしい青年だった。その表情はとても爽やかで、幸せそう笑っていた。隣に写っていたマリアも、セバスチャンのお父さんに身を寄せて微笑んでいて、その雰囲気から2人はとても仲のいいカップルに見えた。
 ジェシカは写真をじっくり見た後、急にマリアの方を見て言った。
「セバスチャンのお父さんってかっこいいね!」
 急にジェシカがそんな事を言ったので、マリアは驚いて、料理を食べるのをピタッと止めて、ジェシカの方を見た。
「えっ!そ、そう?ジェシカのタイプなの?」
「タイプ・・・?タイプって何?」
 マリアの顔が急に赤くなった。動揺して、子供相手になんて事を聞いているんだろうと思った。
「えーと・・・。タイプってのはね・・・。好きって事かな・・・」
 すると、ジェシカは少し何かを考えて、マリアに言った。
「ふーん。じゃあ、お母さんはセバスチャンのお父さんがタイプなんだ」
 マリアはますます動揺した。
「う、うん。まあ・・・タイプ・・・かな」
 マリアはそう言うと、照れたように笑った。ジェシカはマリアの事を不思議そうに見ながら、さらに聞いた。
「セバスチャンも大人になったら、お父さんみたいになるのかな?」
 マリアは気を取り直して言った。
「う、うん。どうかな・・・。セバスチャンはお父さん似だから、なるかもしれないわね。子供の頃のお父さんの写真を見たことがあるけど、セバスチャンによく似ていたわよ」
 すると、今度はセバスチャンもマリアに質問してきた。
「僕って、お父さんに似ているの?」
 マリアはセバスチャンの方を見た。
「うん。子供の頃のお父さんによく似てるわ。おじいちゃんが言ってたんだけど、子供の頃のお父さんはイタズラっ子で、外で泥だらけになるまで友達と遊んで帰って来ていたんだって。でも、セバスチャンと違って、じっとして本を読んだり、音楽を聴いたりする事は苦手だったんだって。だから、性格は私に似てるのかしら」
 すると、セバスチャンはさらに聞いた。
「お母さんは本を読んだりする事が好きだったの?」
 マリアは少し考えた。
「えーと・・・好き・・・じゃなかったかも」
 そう言うとマリアは楽しそうに笑った。セバスチャンもつられて笑った。そして、今度はジェシカが聞いた。
「じゃあ。セバスチャンの性格は誰にも似てないの?」
「ん?今まで考えた事なかったけど・・・」
 マリアはしばらく考えた。そういえばそうなのかもかも・・・でも、もし、セバスチャンが目の見える子供に育っていたら、お父さんと同じで、毎日泥だらけになってたのかもしれない。セバスチャンがじっと本を読むのは、他に楽しい事がないからかもしれない。
「・・・本当はセバスチャンは性格もお父さんに似てるのかもしれないわね」
 セバスチャンは聞いた。
「本当?」
「うん。本当。子供の頃のお父さんはイタズラっ子だったけど、周りの人にはとても優しくていい子だったって言っていたもの」
 それを聞いてジェシカは「ふーん」と言って、セバスチャンの顔をじっと見た。セバスチャンは何をされているかわからずに、ジェシカに見られながら、不思議そうに首を傾げた。
「セバスチャンがお父さんに似てくれるといいな」
 ジェシカはそう言った後、セバスチャンににっこりと笑った。セバスチャンは少し不思議だったけど、とりあえず「うん!」と返事した。
 3人は料理を一通り食べ終えて、ケーキを食べる事にした。マリアは準備していた9本のロウソクをケーキに刺した。
「よし。じゃあ電気を消して、ロウソクに火を点けるわよ」
 セバスチャンは何が行われているか分らなかった。後からマリアに説明してもらうと、それは生まれてから誕生日まで生きてきた事を祝う、大切な「儀式」だった。
 マリアは電気を消して、ロウソクに火を灯した。キッチンからリビングまで続いているだだっ広い部屋に、3人がいるところだけに明かりが灯り、幻想的な雰囲気が漂っていた。
 ロウソクの明かり灯されて、3人の楽しそうな笑顔が写しだされた。特に、ジェシカは目をキラキラと輝かせ、今までにないくらいの笑顔を浮かべた。
「ハッピーバースディトゥーユー♪」
 マリアはハッピーバースデーの歌を手拍子しながら歌いだした。セバスチャンもジェシカもマリアに合わせて一緒に歌った。
 歌が終わると、ジェシカは大きく息を吸い込んで、一気にロウソクに吹きかけた。その瞬間、部屋は真っ暗になった。
「お誕生日おめでとう。ジェシカ」
 マリアがそう言うと、セバスチャンも「おめでとう!」と言った。ジェシカはそれに応えて「ありがとう!」と言った。マリアが拍手をすると、セバスチャンとジェシカも一緒に拍手をした。3人はしばらく拍手をしながら、この瞬間を楽しんだ。
 マリアが部屋の電気を点けると、ケーキに挿してあったロウソクは少しだけ短くなっていた。ケーキの上にはチョコレートでできたプレートが置いてあって、それにも〝ジェシカおたんじょうびおめでとう〟と書いてあった。マリアはケーキを3人分取り分けて、チョコレートのプレートはジェシカにあげた。
「さあ、食べよう」
 そう言われて、セバスチャンとジェシカは「まってました」と言わんばかりに目の前のケーキをほおばった。2人は口の周りにクリームをいっぱいつけながら、とても幸せそうにケーキを食べた。マリアはその様子を微笑ましく見ながら「もっとゆっくり食べなさい」と言った。
 ケーキを食べながら、マリアは思い出した。
「セバスチャン。誕生日プレゼントをジェシカに渡して」
 マリアはプレゼントをセバスチャンに渡して、セバスチャンはそれをジェシカに差し出した。そして、ジェシカはそれを受け取って、にっこりと笑った。
「ありがとう!セバスチャン」
 ジェシカにそう言われて、セバスチャンは少し照れたように笑った。
 ジェシカはさっそくプレゼントの包装を破って中身を見てみた。その中身はかわいらしいモコモコしたウサギのスリッパだった。ジェシカはそれを見た瞬間に「かわいー」と喜んだ。
 ジェシカがスリッパの中をよく見てみると、1枚のカードが入っている事に気がついた。それは、ジェシカへのメッセージカードだった。その中には

 ジェシカお誕生日おめでとう。これからも仲良くしてね。
                     セバスチャンより

 と書いてあった。ジェシカはそれを読んで、セバスチャンの方を見ながら楽しそうに「うん!」と言った。
 その後、3人でジェシカが好きなマジカルミミーのビデオを見た。それは、セバスチャンのアイデアで、マリアが前日に借りていたものだった。セバスチャンはマジカルミミーを観えなかったけど、ジェシカの楽しそうな声が何回も聞こえたので、大満足だった。
 ビデオを見終ると、外はもう真っ暗になっていた。マリアは時計を確認して、ジェシカのお父さんが心配しているかもしれないと思った。
「じゃあそろそろお開きにしましょう」
 それを聞いて、セバスチャンもジェシカもとっても寂しい気持ちなった。だけど、マリアが「今度はセバスチャンの誕生日だね」と言ったのですぐに笑顔を取り戻した。
 時間が遅くなってしまったので、マリアがジェシカを家に送り届ける事になった。
「じゃあ。セバスチャンまた明日ね」
 ジェシカはセバスチャンにお別れを言って、マリアと一緒に家を出て行った。セバスチャンはちょっぴり寂しい気持ちになったけど、また会えるからいいやと思った。
 それから一時経って、マリアが家に戻ってきた。そして、その隣には少し困った顔をしたジェシカが立っていた。
「セバスチャン。また戻ってきちゃった」
 ジェシカはエヘっと笑った。セバスチャンはジェシカが戻って来た事に気付いて、目を丸くして聞いた。
「なんで?なんで?ジェシカがいるの?」
 その質問に対しては、ジェシカの隣に立っていたマリアが説明を始めた。

 ジェシカとマリアがジェシカの家に着いた時、ジェシカのお父さんはまだ帰ってきていなかった。ジェシカはマリアに「一人で家で待っているから大丈夫」と言ったが、マリアはこのままジェシカを置いて、自分の家に帰る事はできなかった。
 マリアはジェシカのお父さんに連絡を取ってみようと思い、ジェシカにお父さんの携帯電話の番号を聞いて電話をかけた。
 トゥルル・・・
 トゥルル・・・
 2コール鳴って、電話が繋がった。
「もしもし?どなたですか? 」
 マリアは丁寧に挨拶をした。
「こんばんわ。ジェシカちゃんの友達のセバスチャンの母親です」
「・・・こんばんわ」
 マリアは話を続けた。
「ジェシカちゃんの誕生日会が終わったので、お家に送らせてもらったのですけど、お父さんはまだ仕事中ですか?」
 ジェシカのお父さんは静かに答えた。
「はい。もう少しかかりそうです」
「どれくらいかかりそうですか?お父さんが帰ってくるまで、一緒に居ようと思っているのですが」
 ジェシカのお父さんはしばらく沈黙して、話し出した。
「・・・まだまだかかりそうです。でも、娘は家に一人でいることに慣れてますから。心配しないで置いて帰ってください」
 マリアは驚いた。
「えっ!?置いては帰れませんよ。何かあったらどうするんですか?」
「でも、いつもの事ですから。娘は慣れてますから」
「慣れてるって・・・。娘さんはまだ9歳になったばかりですよ!」
「大丈夫ですよ。本当に」
 マリアは少し怒った様に言った。
「ジェシカちゃんは寂しいに決まってるじゃないですか!今日の誕生日会だって、本当はお父さんに祝ってもらいたかったんじゃないかと思いますよ!」
「・・・」
 ジェシカのお父さんはマリアを落ちつかせる様に言った。
「・・・大丈夫です。しっかりした子ですから」
 しかし、それを聞いたマリアは頭の中で何かがプツンと切れた。
「わかりました!じゃあ、今晩だけジェシカちゃんは家で預かります。子供を一人置いて、家に帰るなんて私にはできません!いいですね!」
 マリアの勢いに圧倒され、ジェシカのお父さんは静かに「ハイ・・・」と言って電話を切った。
 マリアはセバスチャンに説明した後、「ほんとに無責任な人だった!」とまだ怒っていた。
 理由はともかく、セバスチャンはその『ムセキニン』なジェシカのお父さんのおかげで、ジェシカと一緒にいられる事になったので、とっても嬉しかった。それはジェシカも同じだった。
 マリアは2人が一緒に眠れるように、セバスチャンのベットの隣にジェシカの寝る場所を作ってあげた。それから、「今日は特別にもうちょっと起きていてもいいよ」とセバスチャンに言った。
 その夜、セバスチャンとジェシカは眠くなるまでお話をした。2人ともこんな体験は初めてだったのでなかなか眠りにつけなかった。部屋に灯っていたオレンジ色の灯りが楽しそうな2人をいつまでも照らしていた。
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2008年05月08日

■その13
 次の日、いつもと変わらず家に遊びに来たジェシカに、セバスチャンはさっそく昨日の事を話した。
「ジェシカ。昨日の夜、お母さんにジェシカのお誕生日の事を話したんだ。そしたら、ジェシカのお父さんが忙しいんだったら、僕とお母さんで一緒にお誕生日を祝おうって言われたんだ。だから、僕たちと一緒にお誕生日をしようよ」
 それを聞いてジェシカは笑顔を浮かべた。
「本当!?でも・・・」
「・・・どうしたの?僕たちとお誕生日するのはイヤなの?」
 ジェシカは少し困った顔をしていた。
「ううん・・・、違うの。お父さんがダメって言うかもしれないから・・・」
 ジェシカはセバスチャンの予想と違って、素直に喜んでいないみたいだった。セバスチャンはがっかりした。だけど、ジェシカのお父さんがいいって言ってくれたら大丈夫だと前向きに考えた。
「それってジェシカのお父さんがいいって言ってくれたら大丈夫だよね」
「うん。でも、お父さん、セバスチャン達の事知らないから、ダメっていうかも・・・」
「・・・そっか。僕たちの事知らないとダメなのか・・・」
 セバスチャンはしばらく考えた。そして、頭の中にピーンといいアイデアが浮かんだ。
 セバスチャンはにっこり笑ってジェシカに言った。
「だったら大丈夫だよ。きっと一緒にお誕生日できるよ」
「・・・ほんと?」
「うん。大丈夫!まかせて」
 何だかよくわからないけど、セバスチャンは自信たっぷりだった。セバスチャンの笑顔を見てると、うまくいきそうな気がしたので、ジェシカは少しだけお誕生日が楽しみになった。
 セバスチャンはその日、マリアが家に帰ってくると、一つお願いをした。
「お母さん。ジェシカのお父さんに僕たちの事を教えてあげて」
 マリアは急に変な事を言われたので、少し驚いた。
「え!?どうゆうこと?」
 セバスチャンはにっこり笑った。
「だからー。僕たちの事、教えてあげるだけでいいんだよ。それで大丈夫なんだよ」
「教えるだけでいいって・・・。お父さんにダメって言われたの?」
「ううん。言われてないけど・・・。ジェシカのお父さんが僕たちの事を知らないから、ダメって言うかもって言ってたんだ。お母さんもよく言ってるよ。知らない人に話しかけられたら、挨拶はしないといけないけど、付いて行ってはダメって。悪い人かも知れないからって。でも、僕たち悪い人じゃないから、大丈夫なんだよ」
 マリアはようやく理解した。ジェシカのお父さんはジェシカの事を心配しているんだ。よくよく考えてみると、それはもっともな事だと思った。だけど、本当はお父さん自身がジェシカと一緒にお誕生日を過ごすほうがいいと思っていた。そっちのほうが、ジェシカとお父さんにとって、とても大切な日になると思っていた。
「わかったわ。ジェシカのお父さんに電話してみるわ」
 マリアはそう言って、電話機の前に移動して、一呼吸おいてから、ジェシカの家に電話をかけた。ジェシカの家の番号は、もしもジェシカに何かあった時の為に、以前教えてもらっていた。
 トゥルル・・・
 トゥルル・・・
 トゥルル・・・
 突然ガシャと音が鳴って、電話から「もしもし?」と男性の声が聞こえた。
「もしもし?夜分遅くすみません。私、ジェシカちゃんのお友達のセバスチャンの母親でマリアと言います。ジェシカちゃんのお父さんですか?」
 電話の相手は少し暗い感じだった。
「はい。そうです」
「あの・・・。突然なんですけど、お願いがありまして」
「・・・なんでしょうか?」
「ジェシカちゃんの誕生日の事なんですけど」
「・・・」
「ジェシカちゃんのお誕生日はお父さんがお忙しいと息子から聞きまして。それで、私の家でお誕生日を祝ってあげようかなと思っているのですが」
「・・・」
「・・・あの。本来だったら、お父さんと一緒に過ごしたほうがいいと私は思っているのですが。お仕事なんですよね?」
 ジェシカのお父さんは重たい口を開いた。
「・・・そうですね。その日は忙しくて無理なんです」
「どうしても無理ですか?」
「・・・無理です」
「ジェシカちゃんが悲しむかもしれませんよ?」
「いえ。あの子は大丈夫です」
「一緒に私の家にいらっしゃいませんか?そのほうがジェシカちゃんも喜ぶと思うんですけど」
「だけど、無理なんです。それに、あの子は私にあまりなついていないんですよ・・・。私がいなくても、大丈夫ですよ」
 マリアの声は少し大きくなった。
「そんな事ないと思いますよ。いなくてもいいなんて、絶対、そんな事ないですよ!」
「と、とにかく本当に、忙しくて無理なんです」
「本当に無理ですか?」
「本当に無理なんですよ・・・」
「・・・じゃあ。私の家で祝ってあげても構いませんか?」
 ジェシカのお父さんは少し考えている様子で、しばらく黙った後、こう言った。
「わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ジェシカには私から伝えておきますので。では・・・」
 そして、電話は切れてしまった。
 突然、電話を切られたのでマリアは少し腹が立った。娘の誕生日をほったらかしにするほど忙しい事なんて、一体何をするつもりなんだろう思った。だけど、それでもお父さんの許可が下りてよかったと思った。
 セバスチャンのところに戻ってきたマリアはOKのサインを出しながら言った。
「ジェシカのお父さんはOKだって。でも、お父さんはやっぱり忙しくて無理みたい。でもまあ、楽しいお誕生日にしましょうね」
 セバスチャンはマリアの話を聞いてすぐに大喜びした。
「本当!?やった!ありがとうお母さん!」
 マリアはほっとして、静かに椅子に座り込んだ。セバスチャンはマリアとは正反対にはしゃいでいた。
「うん。そうだ。何かプレゼントを考えないといけないわね」
 セバスチャンは少し驚いた顔をした。
「え!?プレゼント」
「うん」
「・・・そっか。お誕生日って事は、プレゼントをあげないといけなかった」
「そうよ。じゃないと、ジェシカはがっかりしちゃうわよ」
「うん。そうだよね・・・」
 セバスチャンはジェシカへのプレゼントを考えてみた。でも、自分は目が見えないから、ジェシカの喜んでくれるプレゼントを見つけられないと思った。
「プレゼントどうしよう・・・。僕は今まで誰にもプレゼントをあげた事ないよ」
 困っているセバスチャンの様子を見て、マリアは言った。
「じゃあ、私と一緒にプレゼントを考えよう。セバスチャンの知っているジェシカの事をいっぱい教えて。一緒に協力してジェシカを喜ばせてあげよう」
「え!?本当?お母さんが一緒に考えてくれるの?」
 マリアはにっこり笑った。
「うん。もちろんよ!」
 セバスチャンはお母さんが協力してくれれば、きっとジェシカの喜ぶプレゼントが見つかると思った。
「わかった。一緒に考えてね!」
 セバスチャンはジェシカの事を思いつくだけマリアに話した。マリアはそれをメモに取っていって、どんなお誕生日にするかを2人で話し合った。セバスチャンはジェシカが喜んでいる様子を想像して嬉しくなった。マリアもセバスチャンと一緒に考える事がなんだか楽しかった。2人とも盛り上がって夜遅くまで話し合ってしまったので、その日も寝るのが遅くなってしまった。
 次の日、ジェシカはお誕生日の事をセバスチャンに会う前から知っていた。昨日の夜に、ジェシカのお父さんが話していたからだ。
 ジェシカはすっかり元気を取り戻していて、2人はその日からお誕生日の事で頭がいっぱいになった。もう待ちきれなくて、「明日にでもやろうよ」とセバスチャンが言うと、ジェシカは「それじゃお誕生日じゃなくなっちゃうよ」と楽しそうに笑った。
 セバスチャンは本当に待ちどうしくて、寝る前になったらマリアに「後、何日かちゃんと覚えてる?」と聞いた。マリアはそれを聞いて「忘れていないから大丈夫だよ」と安心させてあげた。
 そして、ついにお誕生日の日がやって来た。

2008年05月07日

■その12
 その日はセバスチャンが今までで一番怒った日になった。また、一番嬉しかった日にもなった。
 ある日、いつものようにセバスチャンの家に遊びに来たジェシカがこう言った。
「もうすぐ、私のお誕生日なの」
 セバスチャンは知っていた。お誕生日は一年でお母さんが一番優しくしてくれる日だ。いつもと違って、晩ごはんは自分の大好きなものばっかりだし、ごはんの後に甘くておいしいケーキも食べられる、とっても大切な日だ。
 セバスチャンはおいしいケーキの事を思い出して幸せな気分に浸っていた。ところが、ジェシカがこんな事を言い出した。
「でも、その日はお父さんが忙しくて家にいないの」
 セバスチャンは驚いた。ジェシカが意外な事を言ったからだ。お父さんがいないんだったら、誰がジェシカを祝ってあげるんだろう。おいしいケーキを誰と食べるんだろう。
「だから、今回のお誕生日は無いんだって」
 ジェシカの声をよく聞いてみると、いつもと違って少し寂しそうだった。セバスチャンはジェシカが落ち込んでいるのがわかった。それと同時に腹も立ってきた。お誕生日はとっても大切な日なのに、忙しいからってなくしちゃっていいもんじゃない!と思った。
「それっておかしいよ!お父さんはどうしても家にいてくれないの?」
 セバスチャンが聞くと、ジェシカは少し黙りこんだ後で悲しそうに言った。
「何回も、お願いしたんだけど。やっぱりだめって言われたの・・・」
 セバスチャンは困った顔で言った。
「なんで?本当にどうにかならないの?」
「もう・・・何回も聞いたんだけど・・・でも・・・」
 ジェシカは泣き出しそうな声をしていた。セバスチャンはジェシカを何とかしてあげたいと思った。
「うーん。何とかならないかな」
 ジェシカはうつむいて言った。
「なんともならないよ・・・」
「うーん」
 セバスチャンはジェシカを励ます方法を色々考えてみた。ジェシカはその間ずっとうつむいていて、一言も喋らなかった。
「うーん。いいアイデアはないかな」
 でも、なかなかいいアイデアが浮かばなかった。それからしばらく経って、ジェシカはボソっと言った。
「今日はもう帰るね」
 その日、ジェシカは落ち込んだまま家に帰った。ジェシカの声にはいつもの元気がなくなっていた。
 ジェシカが帰った後もセバスチャンはジェシカの事を考えていた。なんとかジェシカに元気を取り戻させてあげたいけど、どうしたらいいかわからなかった。セバスチャンは自分が不甲斐なくて悲しい気持ちになった。
 夜になって、マリアが家に帰ってくると、セバスチャンはマリアにジェシカの事を相談した。
「今日、ジェシカがね。もうすぐ誕生日があるって言ってたんだ」
 まだ家に帰ってきたばかりなのに、急に話しかけられて、マリアは少し驚いたが、荷物を置いた後、嬉しそうに答えた。
「あら!だったらジェシカのほうがお姉さんになっちゃうね」
「でもね。今回の誕生日はないんだって」
 マリアは首を傾げた。セバスチャンの言っている意味がわからなかった。
「それってどうゆう事?」
 セバスチャンは少し怒ったように言った。
「ジェシカのお父さんがね。忙しくてダメなんだって。だから、今回は無いんだって。でも、それっておかしいと思わない?誕生日って忙しいからってなくしちゃっていいもんじゃないよね。だって、ジェシカがかわいそうだもん・・・。だから、僕が何とかしてあげようと思ったんだけど・・・」
 マリアはセバスチャンの言っている意味がわかってきた。そして、セバスチャンがジェシカの為に怒っている事がとても嬉しかった。セバスチャンはとても優しい子に育っていると思って、自然と微笑んだ。
「うん。私も忙しいからってなくしちゃっていいもんじゃないと思うわ」
 マリアの言葉に反応して、セバスチャンは興奮して言った。
「でしょ!でしょ!お母さんもそう思うでしょ?」
 マリアはますます微笑んだ。
「うん。そう思う」
 セバスチャンは腕を組みながら言った。
「そうなんだけどさー。だからさ、ジェシカに聞いたんだよ。何とかならないの?って。でも、そしたらどんどん落ち込んじゃって。それからずーと考えてるんだけど・・・うーん。どうしたらいいんだろ?」
 マリアは少し考えると、人指し指をピンと立てながらこう言った。
「じゃあ・・・。セバスチャンと私でジェシカの誕生日をしてあげるってのはどうかしら?」
 セバスチャンは不思議そうな顔をした。
「えっ?」
 マリアは楽しそうに続けた。
「だから、私達で誕生日をしてあげるのよ」
 セバスチャンはマリアの言っている意味がわかってきて、急に目を輝かせた。
「えっ?本当?絶対それ、いいアイデアだよ!ジェシカもきっと喜ぶよ」
「うん。そうね。じゃあ、明日ジェシカに会ったら聞いてみなさい」
「うんうん。聞いてみるよ!」
 セバスチャンはその日の夜、ワクワクしていた。早くジェシカに誕生日の事を伝えてあげたかった。ジェシカはきっと元気になってくれると思って、楽しみでしょうがなかった。早く次の日にならないかなと思い、一生懸命寝ようとしたけど、興奮してなかなか眠りにつく事ができなかった。

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南国特産

Author:南国特産

初めて小説を書きました。
もの凄くヘタですが、もしよろしければ読んでみてください。

感想等、お待ちしています。

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