映画化希望
2008年02月

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2008年02月25日

■その10
 ある日、ジェシカは学校帰りに、おぼつかない足取りで家から庭に出てくる少年を見つけた。
 その少年の様子が変だったので、しばらく眺めていると、ゆっくりと庭に置いてある椅子に座って、椅子の隣に置いてあるテーブルの上の何かを探しているみたいだった。
 ジェシカはあの子は何をしてるんだろうと不思議に思った。もうしばらく見ていようかなと思ったけど、大好きなテレビが始まりそうなので、その少年の事が気になりながらも家に帰った。
 ジェシカは家でテレビを見た後、お父さんにおつかいを頼まれた。お父さんはジェシカに買ってくる物を書いたメモと、お金を渡した。ジェシカはお父さんに言われたとおり、近所のスーパーマーケットに向かった。
 ジェシカはスーパーマーケットに行く途中で、さっきの少年の家の前を通りかかった。少年は、まだ庭の椅子に座ったまま、特に何もしてないみたいで、ぼーっと空を眺めていた。ジェシカは空に何かあるのかと思って、空を見上げてみたけど、オレンジ色の夕日が眩しいだけだった。
 ジェシカがまあいいやと思って、再び歩き始めた時、道の向こうから見覚えのあるおじさんが歩いてきて、ジェシカに話かけてきた。
「こんにちは。えーと。んー。君はたしかジェシカだったね」
 ジェシカは不思議そうな顔をして答えた。
「うん。おじさんは・・・。えーと。・・・あっ。トムおじさん!?」
 トムおじさんはにっこりと微笑んだ。
「覚えてくれたのかい。嬉しいなー」
「うん。ちゃんと覚えたよ」
「ははは。偉いなー。ところで、こんな時間に一人でどこに行くつもりだい?」
「お父さんにスーパーに行ってきてって言われたの」
 トムおじさんは納得したようにうんうんと頷いて、ジェシカの頭を撫でながら言った。
「君は偉いなー」
 そして、こう続けた。
「そうそう。あそこの椅子に座っているのが、前に話したセバスチャンだよ」
 トムおじさんは、さっきまでジェシカが見ていた少年を指差した。ジェシカはその方向に振り返って、少年を見た。
「セバスチャンは毎日この時間になると、あそこでラジオを聴いてるみたいなんだ」
 ジェシカはトムおじさんの話を聞きながら、セバスチャンをずっと見ていた。
「なんでもセバスチャンの先生が、ラジオを聴くなら外で聞いたほうがいいって、教えてくれたかららしいよ」
「ふーん」
 2人はしばらくセバスチャンを見ていた。セバスチャンは2人が見ている事に、まったく気付いていないみたいだった。
 一時経つと、トムおじさんが言った。
「じゃあ。私はもう行くからね。気をつけて行ってくるんだよ」
「うん」
 トムおじさんはそう言って、ジェシカと反対方向に歩き出した。
 トムおじさんが行ってしまったので、ジェシカは再び歩き始めた。だけど、すぐに立ち止まり、振り返ってもう一度セバスチャンを見た。そして、ぽつんと椅子に座っているセバスチャンの事を、なんとなく寂しそうだなと思った。
 次の日も、ジェシカは学校帰りにセバスチャンを見かけた。セバスチャンはちょうど家から出てきたみたいだった。ジェシカは昨日のセバスチャンの姿を思い出し、話しかけてみようかなと思った。
 ジェシカはゆっくりとセバスチャンのいる庭に近づいた。そして、少し緊張しながら話しかけた。
「あなたの名前はセバスチャンね。わたしはジェシカ」
 ところが、セバスチャンはすぐに返事をしてくれなかった。何でだろうと思ったジェシカは、再び話しかけた。
「あなたはセバスチャンじゃないの?」
 すると、セバスチャンは辺りをキョロキョロ見渡した後、ジェシカの方を見て答えた。
「うん。ぼくはセバスチャンだよ」
 ジェシカはその時、セバスチャンは普通の子とどこか違うと感じた。セバスチャンはジェシカの方に顔を向けていたけど、目を見ていなかったからだ。
 ジェシカはセバスチャンに聞いてみたい事があった。トムおじさんが言っていたように、本当に目が見えないのか教えてほしかった。もし本当に見えていないなら、自分の姿がわからないはずなので、学校の男子みたいにいじわるな事は決して言わないだろうと思っていた。
 ジェシカがセバスチャンに目の事を聞くと、ジェシカの位置はわかるけど、本当に目は見えないと答えた。だけど、ジェシカはセバスチャンの言っている事が信じられなかった。セバスチャンの目はしっかりと開いているのに、見えないなんておかしい。おもいっきり顔を近づけたら、見えるんじゃないかと思った。
 ジェシカはそう思いながら、セバスチャンのいる庭の周りを見渡した。すると、柵と地面の間に、自分がくぐれそうな隙間があるのに気付いた。ジェシカはそこから入って顔を近づけてみようと閃いた。
 ジェシカは、急いで隙間をくぐりぬけ、セバスチャンのいる庭の中に入った。それから、お互いの鼻と鼻が当たりそうなくらいまで、一気に顔を近づけた。セバスチャンの瞳にはジェシカの顔が写っていた。ジェシカは大きく目を開いて、瞳の奥をじっと見た。その瞳は、薄い青色をしている綺麗な瞳だった。
 ジェシカはそのままでセバスチャンに聞いた。
「今度はどこにいるかわかる?」
 すると、ジェシカの目の前の瞳が急に大きくなった。同時に口があんぐり開いて、鼻がひくひくなった。
「ぼ、ぼくのすぐ目の前かな」
 ジェシカは思わず笑ってしまった。本当に、これ以上ないくらい目の前にいて、セバスチャンの顔が凄くびっくりしていたからだ。
 それから、ジェシカは自己紹介をした。さっきもしたはずだけど、セバスチャンは聞いていなかったみたいだった。
 セバスチャンはヘンテコな子だった。ジェシカが持っていた「クラウンビスケット」をあげたら、ムシャムシャほおばって、心から満足気な顔をしたり、子供なら誰でも知っているような話なのに、それを聞くと「凄い!、凄い!」とおおはしゃぎしたり、ジェシカとお話しているのが、本当に楽しそうだった。
 2人はすぐに仲良くなって、ジェシカはまた遊びに来る事を約束した。すると、まるでクリスマスがきたみたいにセバスチャンは喜んで、ジェシカはそれが嬉しかった。
 帰り道、ジェシカは空を見上げながら歩いた。なんだかとってもいい気分だったので、空がいつもより綺麗な気がした。
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2008年02月21日

■その9
 学校が休みの日、ジェシカはお父さんと一緒にパン屋に行った。
 この町では、休日の朝にパンを買いに行く人が多い。それは、毎日忙しく朝ごはんを作っている母親を、この日だけはゆっくりさせてあげる為らしい。でも実はその風習は、ジェシカが今日やって来た「マザーズベーカリー」というパン屋が、お店を繁盛させる為に勝手に考えた事で、その事を知っている人はほとんどいなかった。その風習のせいもあって、マザーズベーカリーの店内は人で溢れかえっていた。
 ジェシカはお店に入るとお父さんに「パンを2つ選びなさい」と言われた。ジェシカは「うん」と答えて、並べられてあるパンを全部見て回った。
 気に入ったパンがいくつかあってジェシカは凄く悩んだけど、結局、初めから決めていた、カラフルなチョコチップがいっぱいついたドーナツと、マジカルミミーをかたどったお菓子のパンにする事にした。
 ジェシカがお父さんに選んだパンを言うと、お父さんはそれをプラスチックでできたトレイにひょいひょいと乗せた。それから、自分の分も追加して、2人はレジに並んだ。
 レジには長蛇の列ができていて、まだまだ時間がかかりそうだった。ジェシカは、早く買って帰ってお家で食べたいのにと思っていた。
 レジを待っている途中、お父さんの携帯電話が突然鳴りだした。お父さんは急いで電話にでると、小声で「もしもし」と話した後、一旦話すのをやめてから、
「お父さんはちょっと電話をしないといけないから、レジでお金を払いなさい」
 と、ジェシカに言った。
 突然そんな事を言われて、ジェシカは困ってしまったけど、お父さんはそんなジェシカの事なんて気にしていないみたいで、ジェシカに小さな小銭入れをポイっと手渡して、一人でお店の外に出て行ってしまった。
 ジェシカは一人になって、少し不安になった。だけど、一人でお菓子を買ったこともあるし、大丈夫だろうと思っていた。
 しばらくすると、ジェシカの順番がやって来た。レジのおばさんは手馴れた手つきでパンをビニール袋に入れると、パン代をジェシカに伝えた。ジェシカはお金を払おうと思って、小銭入れの中身を見た。すると、小銭がいっぱい入っていて、うまく数えられそうになかった。そこで、ジェシカはレジの前で小銭入れをひっくり返して、数える事にした。
「いーち、にーい、さーん・・・」
 レジのおばさんはジェシカが小銭を数えている間、しばらく待っていた。だけど、ジェシカがあまりにも遅かったので、一緒に数えはじめた。
 2人が数えだしてからしばらくすると、レジのおばさんは困った顔をしながらジェシカに言った。
「あらー。これだけじゃたりないわ」
「えっ」
 ジェシカは驚いた。まさか、お金がたりないなんて、思ってもいなかった。
 驚いているジェシカを見て、レジのおばさんはもう一度小銭を数えてみたけど、やっぱり足りていないみたいだった。
「もうお金は持っていないの?」
「・・・」
 困ったジェシカはお父さんを呼ぼうとした。だけど、レジに並んでいる人達と、パンを選んでいる人達がジェシカの周りを囲んでいて、見つけられそうになかった。
 レジのおばさんはジェシカに聞いた。
「お母さんはいないの?」
 ジェシカは困った顔で答えた。
「・・・今は、どこかで電話してるの」
 レジのおばさんはそれを聞いてますます困った顔になった。ジェシカもどうすればいいのか分からなくて、レジの前で呆然と立ち尽くしていると、レジに並んでいる客達の中から「早くしてくれ!」と少し怒った声が聞こえてきた。
 レジのおばさんはしょうがないので、お金を持ってもう一度並んでもらおうと思った。その時、ジェシカのちょうど後ろに並んでいたおじさんが、2人の間に入ってきた。そのおじさんは毎日の日課で、パンを買いに来ていたトムおじさんだった。
「その子の足りない分は私が払うよ」
 少し緊張したような声で、そう言ったトムおじさんは、すべてのパン代を払った後で、ジェシカをお店の外に連れ出した。
 トムおじさんはお店を出ると、ジェシカを出口の横にあるベンチに座らせて、ハハハと笑いながら言った。
「いやー大変だったね。君のお母さんはどこにいるんだい?」
 ジェシカは答えた。
「お母さんじゃなくて、お父さんと来たの。でも、お父さんはどっかで電話してるの」
 すると、トムおじさんは少し薄い頭をぽりぽり掻いて、困った顔をした。
「そうか。でもどこにいるんだろうね。うーん。困ったな」
 トムおじさんが困っているので、ジェシカはキョロキョロと辺りを見渡した。すると、道の向こうでまだ電話をしているお父さんの姿を見つけたので、トムおじさんに、お父さんはあそこにいるよと指を射して教えた。
 トムおじさんはジェシカのお父さんを見ると、少し驚いたように言った。
「おお、彼がお父さんなのかい?かなり昔にこの町から出て行ったと思っていたんだが。もしかして帰ってきたのかな?驚いたな」
 そう言った後、トムおじさんはジェシカに聞いてきた。
「すると・・・君は最近、引っ越してきたのかい?」
 すると、ジェシカは少しはぶてた顔をして言った。
「うん。多分そうだと思う。でも、前のとこの方がよかったな・・・」
 トムおじさんは不思議そうな顔をした。
「ん?なんでだい?この町は暮らしやすくていいとこだよ」
 トムおじさんはそう言って、ジェシカにニコッと笑いかけた。でも、ジェシカの顔ははぶてたままだった。
「・・・だって、まだ友達できてないもん・・・」
 トムおじさんはハッとした。引っ越してまだ間もないから、友達がまだできていないのは仕方ないかもしれないが、前のところにとても仲の良い友達がいて、この子はツライ別れをしてきたのかもしれないと、勝手に想像した。
 しばらく2人は何も言わずにジェシカのお父さんの様子を見ていた。すると、お父さんはこちらに気付いたみたいで、トムおじさんに軽い会釈をした。トムおじさんはそれに対して、軽く手を挙げて返事をした。
 トムおじさんはジェシカの方を見て言った。
「君のお父さんは、まだ電話をしているみたいだから、電話が終わるまで私もここで待っていよう」
 トムおじさんはそう言うと、ジェシカの横に座わって、自己紹介を始めた。
「私の名前はトム。ずっと昔からこの町に住んでいるんだよ。君の名前は何て言うんだい?」
 ジェシカは元気に答えた。
「私はジェシカだよ」
「ははは、元気いっぱいだね。今、何歳だい?」
 ジェシカは少し考えた。
「うーんと・・・8歳だよ」
 トムおじさんはうんうんと頷いた後、にっこり笑いながら言った。
「私はね、君のお父さんの事を昔から知ってるんだよ。まだ、お父さんが君ぐらいの時からね」
 ジェシカは少し不思議そうな聞いた。
「ふーん。なんで?」
 トムおじさんは少し自慢気に答えた。
「私はこの町で生まれてから、一度も外に出て行った事がないからね。だから、この町の事なら何でも知ってるんだよ。君は引っ越して間もないだろうから、わからない事があったら何でも私に聞きなさい」
 トムおじさんはジェシカにこの町を好きになって欲しかった。もし、この子が町を好きになってくれなかったら、町の話をした自分の責任になるかもしれないと、少し大げさに考えていた。
 それから、トムおじさんとジェシカは、この町についてしばらくお話をした。ジェシカはトムおじさんとお話しをするのがとても楽しかった。この町に引っ越して来てから、ほとんど人と話をしていなかったので、そのうっぷんをトムおじさんに全部ぶつけた。
 2人の話がだいたい終わった頃、トムおじさんは思い出したかのように、近所に住む目の見えない少年の話を始めた。
「そういえば、近所に君と同じ8歳の男の子がいるよ」
 トムおじさんは少し切なそうな顔をしていた。
「その子はね、セバスチャンという名前でね、とても優しくていい子なんだよ。でもね、見た目は普通の子と全然変わらないのに、不思議な事に目が見えないらしいんだ。でも、変な風に思っちゃだめだよ。本当にいい子だからね。仲良くしてあげなさい」
 ジェシカは思った。見た目は普通なのに目が見えないって、どうゆう事だろう。
 トムおじさんは念を押すように言った。
「わかったね?」
 ジェシカは不思議に思いながらも返事をした。
「うん。わかった」
 セバスチャンの話が終わったぐらいに、ジェシカのお父さんがジェシカのところに戻ってきた。
「トムさん。すみませんでした」
 ジェシカのお父さんはトムおじさんにペコリと頭を下げた。すると、トムおじさんは少し怒った顔でお父さんに言った。
「子供を一人で置いていってはいかん」
 そして、今度はにっこりと笑ってジェシカに言った。
「おとうさんが戻って来たから、私はそろそろ行くとするよ。ジェシカありがとう。楽しかったよ」
 トムおじさんはジェシカにバイバイと手を振って帰って行った。ジェシカもトムおじさんにバイバイと手を振った。
 ジェシカは家に帰る途中、お父さんにトムおじさんの事と、目の見えない少年の事を話した。せっかくジェシカが話してるのに、お父さんはトムおじさんとは違って、別の事を考えながら聞いているみたいだった。

2008年02月16日

■その8
 ジェシカは最近ツイていなかった。最近というのは、この町に引っ越してくるちょっと前からだ。
 ジェシカは元々、ここからずっと遠くの都会で生まれ育った。今とは違って、コンクリートでできた家に住んでいて、たまにお母さんと大きなデパートに行くのが楽しみな子供だった。
 ジェシカのお父さんは銀行員をしていた。朝早く家を出て、夜遅くに帰ってくる人で、ジェシカが生まれてからも、家にいない事が多かった。ジェシカのお母さんもいわゆるキャリアウーマンで、保険のセールス員を朝から晩までやっていた。
 お父さんもお母さんも忙しかったジェシカは、ほとんど家の中で一人ぼっちだった。それを心配したお母さんは、ホームヘルパーを雇ってジェシカの面倒を見させていた。
 でも、ジェシカに不満はなかった。お母さんの仕事がお休みの日は、買い物に連れて行ってくれたり、遊園地に連れて行ってくれたりした。それにホームヘルパーのおばさんは、とてもおもしろい人で、ジェシカをいっぱい笑わせてくれた。
 ホームヘルパーのおばさんのおかげなのか、寂しい境遇の中でもジェシカは明るく元気に育っていった。でも、そんなジェシカを突然悲しい出来事が襲った。お父さんとお母さんが大喧嘩をして、離婚をすると言いだしたのだ。
 ジェシカのお父さんとお母さんは、何回か話し合ったけど、結局、結論は変わらなかった。2人がジェシカをどちらで引き取るか話し合った時、意外な事にお父さんが名乗りでた。しかも、今の仕事を辞めて、生まれ故郷にジェシカを連れて帰ると言い出した。
 そうゆう理由で、ジェシカはこの町に引っ越して来た。お母さんと離れてしまったのは寂しかったけど、またいつでも会いにいけばいいと思っていたので、そんなに傷ついてはいなかった。それどころか、新しい町での暮らしを、少し楽しみにしていた。
 ところが、この町に引っ越してきた次の日、新しい学校に初めて行った時、ジェシカにまたまた悲しい出来事が襲った。
 担任の先生に連れられて、クラスに向かう廊下を歩いている時、ジェシカは少し緊張していた。でも、いつものように元気に明るく挨拶をしようと決めていた。
 クラスのドアの前についたら、ジェシカは先生に、私が呼ぶまで待っていなさいと言われた。
 先生はガラガラっとドアを開けてクラスに入っていくと、まず「静かにしなさーい」と叫んだ後で、転校生が来たことをクラスの生徒達に伝えた。生徒達はそれを聞いて、ワーと盛り上がった。
 先生は困った様子でドアの向こうにいるジェシカを見て、入って来なさいと手招きした。
 ジェシカが緊張しながらクラスに入っていくと、生徒達は一斉にジェシカに注目した。ジェシカはさらに緊張して、顔が熱くなってきた。早く自己紹介をして、自分の机に座りたいと思った。
 ところが、先生がジェシカを紹介しようとして、声を出そうとした時、突然一人の少年が大きな声で叫んだ。
「デブー!!」
 すると、その少年の声を聞いて、生徒達が一斉に笑いだした。さっきまで静かだったクラスの中が、また騒がしくなってきていた。
 先生はもう一度、静かにさせようとしたが、生徒達が騒ぐ勢いのほうが上だった。ジェシカはその時、頭が真っ白になっていた。昨日の夜、一生懸命考えた自己紹介も、一瞬で忘れてしまっていた。
 先生は怒鳴り声を上げて怒った。最初に叫んだ少年と、あと何人かの生徒を名指しで注意した。注意された生徒は、それでも騒ぎをやめなかった。怒った先生は顔を真っ赤にしながら生徒の頭にゲンコツをした。すると、ゲンコツをされた生徒は、「痛っ」と言った後で半分泣きながらおとなしくなった。
 先生がゲンコツをした後でも、小さな声でクスクスと笑う声が聞こえていた。先生は、まだ笑っている生徒がいる事がわかっていたけど、このままジェシカに自己紹介をさせようと思った。
 ジェシカはすこし笑い声のするクラスの中で、自分の名前を黒板に書いた。黒板に書いた後、振り返ると、意地の悪そうな男子がこちらを見ながら笑っているのがわかった。先生はジェシカを「クラスに新しく入ってきた友達」と紹介したが、ジェシカはこんな子たちと友達になんかなりたくないと思った。
 その日から、ジェシカにとって学校は最悪なものになってしまった。いままで学校がそんな場所だと思った事もなかった。
 それから、次の休み明けの日まで、ジェシカはクラスの生徒達と一言も話さないで過ごした。本来、ジェシカは明るい性格の持ち主なのに、たわいもない一言が、ジェシカの心を塞いでしまっていた。

2008年02月13日

■その7
 セバスチャンはその日、朝から憂鬱だった。
 その日は、朝起きるとポトポトとセバスチャンの嫌いな雨が降っていた。雨の音で目を覚ましたセバスチャンは、起き上がってムスっとした。今日は朝の体操が外でできない。だからトムおじさんとも話せない。つまんないなとほっぺを膨らました。
 マリアは雨が降る日はセバスチャンの機嫌が悪い事を知っていた。起きてきたセバスチャンにむかって、
「今日は雨で残念ね」
 と言うと、セバスチャンのほっぺはさらに膨らんだ。
 夕方になってマイケル先生が学校に戻ったくらいには、すっかり雨が止んでいた。どうせ止むならもっと早く止めばいいのに。セバスチャンはそう思って不機嫌な顔になった。
 怒っていてもしょうがないので、セバスチャンはいつものように『チキュウミステリー』を聞く事にした。雨で少し濡れた庭の椅子に座って、ラジオのボタンを押そうとしていたら、突然、誰かが話しかけている声が聞こえた。
「あなたの名前はセバスチャンね。わたしはジェシカ」
 最初、セバスチャンはよくわからなかった。自分に話しかけてくるのは、お母さんか、トムおじさんか、マイケル先生だけだったので、その声が自分に話しかけているとは思わなかった。
 セバスチャンは少し戸惑いながら黙っていた。すると、
「あなたはセバスチャンじゃないの?」
 さっきの声がまた聞こえた。しかも間違いなくセバスチャンと言っている。困惑したセバスチャンは「セバスチャン」っていうのは自分の名前だったっけと考えてみた。すると、そういえばさっきまで家にいたマイケル先生が「セバスチャン」って呼んでいた事を思い出して、急いで返事をした。
「うん。ぼくはセバスチャンだよ」
 セバスチャンがそう言うと、しばらくして返事が返ってきた。
「あなたに聞きたい事があるの」
「なあに?」
「・・・目が見えないって聞いたんだけど、本当?」
 セバスチャンは少し首を傾げた。何でこんな事を聞くのだろうと思った。
「うん。見えないよ。声や匂いはわかるけど」
「じゃあ。私の姿も見えないの?」
「うん。見えないよ。でも声がするからどこらへんにいるかはわかるよ」
 その声は少し黙った後で、不思議そうに聞いてきた。
「じゃあ、どこらへんにいるか言ってみて」
 セバスチャンは少し考えた。前のほうから声が聞こえている気がした。
「僕のちょっと前かな」
 そう答えた直後だった。セバスチャンのすぐ近くで、いままでに嗅いだことのない匂いがふわっとした。それは甘い花のような、香ばしいお菓子のような、不思議な匂いだった。
「今度はどこにいるかわかる?」
 セバスチャンは今度はびっくりした。その人は自分のすぐ目の前にいると思ったからだ。どうしようかと思ったけど、どうしようもないので正直に答える事にした。
「ぼ、ぼくのすぐ目の前かな」
 セバスチャンがそう言った直後、目の前からアハハと楽しそうな声が聞こえた。セバスチャンは何となくわかった。今自分が話している相手は、自分と同じ子供だ。
「セバスチャンって不思議」
 その子はそう言うと、もう一度アハハと楽しそうに笑っていた。なんでこの子はそんなに楽しそうなのかわからなかったけど、セバスチャンもなんだか楽しくなってきた。
「君は誰なの?」
 セバスチャンは多分今、目の前にいる子に聞いた。すると驚いたような口ぶりで返事が返ってきた。
「え!?さっきも言ったじゃない。私は〝ジェシカ〟よ」
 そういえば確かにさっき、〝ジェシカ〟って言っていた。セバスチャンは思い出した。あまりに突然の出来事だったので、すっかり忘れていた。
 セバスチャンはジェシカに聞いた。
「僕の家に入って来たの?」
 ジェシカはあっさり答えた。
「うん。庭の柵の隙間から簡単に入れたよ」
 そして、少し自慢げに言った。
「びっくりしたでしょ」
 ジェシカが言うようにセバスチャンは本当にびっくりしていた。そしてふいにトムおじさんの話を思い出した。最近、この町に引っ越してきた新しい人の話だ。もしかすると、ジェシカは引っ越してきた人かもしれない。
「君は最近、僕の家の近くに引っ越してきた新しい人?」
 ジェシカはハキハキした口調でこう答えた。
「うん、そうよ。このあいだ引っ越してきたの」
 その直後、セバスチャンは突然手に暖かいものを感じた。どうやら手を握られているみたいだった。その手はセバスチャンよりも小さな手で、自分より小さな手に触れる事は初めての体験だった。暖かい人の温もりが伝わってきて、セバスチャンは少し安心した。
 ところが、安心できたのはつかの間だった。さっきまで止まっていたその手は急に上下に動き、セバスチャンの腕をブンブン振り始め、慌てているセバスチャンの事なんておかまいなしで、スピードをどんどん加速していって、最終的に繋いでいた手をポーンと振り払った。
 セバスチャンは急に手を離されたので、椅子から滑り落ちそうになって、思わず「うわっ」と声を出した。セバスチャンを驚かせた張本人のジェシカは、それを見て指差しながら笑っていた。
 ジェシカは悪びれた様子もなく、楽しそうに聞いてきた。
「また、びっくりした?」
「うん。すごく、びっくりしちゃった。でも、面白かった」
 さっきの衝撃のせいなのかわからないけど、セバスチャンはトムおじさんが言っていた事をまた思いだした。
「そういえば。君は僕と同じ8歳の『オンナノコ』だよね?」
 セバスチャンが急に変な事を聞いてきたので、ジェシカは少し面白かった。
「そうよ。私は女の子だよ。セバスチャンには女の子の友達はいる?」
 セバスチャンは少し寂しそうに言った。
「いないよ。それに僕には子供の友達もいないし」
 ジェシカは少し黙った後、言った。
「そっか。じゃあ、私が友達になってあげる」
 ジェシカはにこっと笑ってセバスチャンと再び握手をした。ついでに、油断していたセバスチャンの隙をついて、手をポーンをもう一回した。それから、『友達の証』に持っていた『クラウンビスケット』をセバスチャンにあげた。
 セバスチャンはクラウンビスケットを貰うと、口の中に入れてみた。すると、一口食べた瞬間に、その味に感動した。クラウンビスケットはいつもマリアがくれる『アマサヒカエメ』ってお菓子とは段違いだった。口いっぱいに甘さが広がって、名前に負けていない味だった。
 感動しているセバスチャンを見ながら、ジェシカは喋り始めた。
「セバスチャンはいつもここに一人でいるの?」
 口の中にあるクラウンビスケットをモグモグしながらセバスチャンは答えた。
「うん。勉強が終わったらここでラジオを聴くんだ」
 そういえば忘れていた。セバスチャンは『チキュウミステリー』の事を思い出した。でも、まあいいやと思った。
「どこにも遊びにいかないの?」
「うん。お母さんもトムおじさんも家の外からでちゃだめだって言うんだ。たぶん、僕の目が見えないからだと思う」
「ふーん。遊びにいけないのはつまんないね」
「うん。・・・ときどきつまんないけど、楽しい事もあるよ」
 ジェシカは不思議そうに聞いた。
「どんな時?」
 ジェシカにそう聞かれて、今日の楽しかった事は何だろうと頭を捻った。今日は朝から雨が降っていたし、お昼ごはんにはやっぱりタマネギが入っていたし、何だろう?
 よくよく考えてみると、今こうやってジェシカとお話をしている事が、今日一番の楽しい事だと気付いた。それどころか、今までで一番かもしれないと思った。
「今、とっても楽しいよ。君とお話していると」
 ジェシカは目を丸くさせた後、また楽しそうにアハハと笑った。
「私とお話をするだけで楽しいの?」
「うん。とっても楽しいよ。」
 ジェシカはにっこり笑った。
「じゃあ。もっとお話してあげるね!」
 それからジェシカは、最近流行っているおもちゃのスライムの話や、クラウンビスケットのいちご味はいちごの味がしないから買っちゃダメって話や、テレビのマジカルミミーが来週で終わっちゃう話をしてきた。
 セバスチャンは夢中でジェシカの話を聞いた。たまに興奮して、
「君はいろんな事を知ってるんだね。すごいや!!」
 と言うと、ジェシカはアハハと笑った。セバスチャンはなんで笑われたのかわからなかったけど、なんだかおもしろくなって一緒にアハハと笑った。
 ジェシカとお話をしていると、あっという間に時間が過ぎて行った。『チキュウミステリー』はもうすっかり終わってしまって、セバスチャンの嫌いなニュース番組も終わろうとして、辺りも暗くなっていた。
 ジェシカはまだいっぱい話したい事があったけど、家に帰らないといけないと思った。
「そろそろ私、帰らないと」
 ジェシカがそう言うと、セバスチャンは少し複雑な気持ちになった。ジェシカにまた来てもらいたいけど、一緒に外にはいけないから、つまらないかもと思った。
 ところが、ジェシカは帰り際にこう言ってきた。
「明日また来てもいい?」
 それは、セバスチャンにとって願っても無い言葉だった。セバスチャンの複雑な気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
「うん!うん!また来て!」
 大喜びで答えてきたセバスチャンを見て、ジェシカはアハハと笑った。
「うん。またね」
 そう言うと、ジェシカはセバスチャンにバイバイの仕草をしながら帰って行った。帰っていくジェシカの後ろ姿は、なにか宝物でも見つけたみたいに楽しそうだった。
 マリアが帰ってきて、セバスチャンはジェシカの事をいっぱい話した。家の中に勝手に入って来たから、怒られるかもしれないと思っていたけど、全然そんな事はなかった。それどころか、「今度はジェシカちゃんの為にお菓子を準備しとかないとね」とマリアは嬉しそうだった。
 その夜、セバスチャンはジェシカの事を考えた。トムおじさんが言っていた、『オトコノコ』が『オンナノコ』を好きになる話がなんとなくわかった気がした。ジェシカの匂いはとてもいい匂いだったし、ジェシカの声はとても心地良かった。なによりもジェシカにまた会いたいと思った。それから、クラウンビスケットの事もちょっぴり考えながら眠りについた。

2008年02月04日

■その6
 マリアは帰って来ると、おなかを空かせたセバスチャンの為に、急いで夕食を作った。
 今日の夕食はセバスチャンの前々からのリクエストでハンバーグだった。テーブルに座っていたセバスチャンはハンバーグの焼けるいい匂いにもう我慢できなくなって「まだー」と連発していたけど、フライパンの中のハンバーグはセバスチャンがいくら急かしてもマイペースにこんがりと焼き目をつけていた。
 夕食の時間は、セバスチャンが今日の出来事をマリアに話す時間でもあった。
「トムおじさんの飼っているネコはミケネコのミケールっていう名前なんだよ。知ってた?」
 セバスチャンは口の周りにハンバーグのソースをベタベタつけたまま喋り始めた。他には、
「マイケル先生の好きな偉い人はマルコ・ポーロなんだって。変な名前だよね」
 セバスチャンが今日話した中でも、マリアが一番おもしろかったのはこの話だった。
「今日、マイケル先生に『オンナノコ』が好きか聞いたんだけど。答えてくれなくて。また今度って言われちゃった。マイケル先生はいっつも何でも答えてくれるのに。何かちょっと変な感じだったよ」
 マリアはクスクス笑って答えた。
「その答えはいつ教えてくれるのかしらね」
 セバスチャンもそう思った。それともう一つ思い出した。
「あ!そうそう。トムおじさんが言ってたよ。お母さんは今も昔も『オンナノコ』だって」
 それを聞いたマリアは思わず「まあ」と目を丸くした。
 夕食が終わったら、セバスチャンは歯を磨かないといけなかった。本当は口の中が何だかわからなくなるから歯磨きは嫌いなんだけど、歯磨きをちゃんとしないと、とんでもない事が起こると言われているので我慢しながらやっていた。
 歯磨きが終わったら、セバスチャンはマリアと一緒にお風呂に入った。お風呂の湯船は暖かくて気持ちがいいし、プカプカ体が浮かぶのが面白くて好きだったけど、髪を洗ってもらうのは苦手だった。
 マリアはセバスチャンの髪を洗う時に必ず合図をしていた。。セバスチャンは合図があったら目をぎゅっと瞑って、マリアが「もういいよ」と言うまで、じっと耐えていた。マリアは少しかわいそうな気がしたけど、この時ばかりは我慢してもらうしかなかった。セバスチャンにとってシャワーのジャーッという大きな音はとても怖かったし、体に水が当たる感触は気持ち悪かった。
 お風呂から上がったセバスチャンはいつも頭がボーっとしていた。マリアはそれは眠いっていう事と教えてあげた。目を開けていても、瞑っていても同じなのに不思議だなとセバスチャンは思っていた。
 セバスチャンが眠くなってきたら、マリアはだっこしてベッドに入れてあげた。セバスチャンはこの瞬間が好きだった。でも、マリアはセバスチャンをベッドに入れると「おやすみ」と言って、静かに居なくなってしまうので、この瞬間は寂しくて嫌だった。
 布団に入ったセバスチャンはじっと目を瞑った。いつもと同じなんだけど、なにかが違う。もっともっと、暗く深いところに落ちていく感じがした。
 そしてまた次の日が来る。いつもと同じ一日がやってくるはずだった。

2008年02月01日

■その5
 マイケル先生の授業は午前の部と午後の部に分かれていて、午前と午後の間に昼食の時間があった。
 マイケル先生とセバスチャンの昼食は毎朝マリアが会社に行く前に作ってあげていた。朝は時間が無いので簡単な物が多かったけど、マイケル先生はマリアのこの「手料理」を密かに楽しみにしていた。
 そのかわり、マイケル先生はセバスチャンに昼食を食べさせてあげていた。この時のマイケル先生はスーツが汚れるといけないからといって、白いヒラヒラの着いたエプロン姿でちょっぴりまぬけだった。
 今日の昼食はサンドイッチだった。まだ、一口しか食べてないのにマイケル先生がこう言った。
「今日もセバスチャンのお母さんのごはんはおいしいな」
 いつもは寡黙なマイケル先生なのに、この時ばっかりはやけに上機嫌だ。子供のセバスチャンでもなんとなくそれがわかっていた。
「そうかなー。おいしいけど、僕の嫌いな野菜が入ってるもん」
 マイケル先生は自分の奥さんでもないのに、マリアの料理にケチをつけられて、ちょっとムッとした。
「野菜を食べないと。大きくなれないぞ!」
 マイケル先生にそう言われたので、セバスチャンはしかたなく嫌な顔をして野菜を食べた。
「この野菜、何て言うんだっけ?」
 マイケル先生はサンドイッチに挟まっている野菜を見た。それは子供達の中で嫌われ者No1のタマネギだった。しかも、さっきは偉そうなことを言っていたマイケル先生も、実はこのタマネギが少し苦手だった。
「これはタマネギだよ」
 セバスチャンはタマネギの事を思い出した。あのヘンテコな味のする嫌なヤツだ。
「なんで。お母さんはタマネギを僕に食べさせようとするのかな?」
 マイケル先生はセバスチャンの意見に同意だったが、ここで認めるわけにはいかなかった。
「それは、セバスチャンのためを思って入れてくれてるんだよ」
「僕のためを思ってくれてるんなら、ベーコンのほうがいいのに・・・そしたら、僕はもっと喜ぶよ」
 マイケル先生は少し考えた。
「思ってるって言うのは、嬉しい事だけをしてあげるって事じゃないんだ。セバスチャンが悪い事をしたら怒られるだろ?」
 セバスチャンは怒ったマリアを想像した。マリアは普段優しいだけに、怒ると凄く怖い。セバスチャンは急いでサンドイッチを平らげた。
「ごちそうさま。おいしかった・・・かな」
 午後の部は授業というよりはマイケル先生がセバスチャンと体を動かして遊んであげる時間だった。マイケル先生はこの授業を始める前に、スーツを脱いでジャージ姿に着替えていた。なんでも、スーツよりもこちらのほうがやる気がでるらしい。
 体を動かして遊んであげるといっても、セバスチャンにできる事は限られていて、キューと体をストレッチしたり、ぴょんぴょんジャンプしたり、ボールをポーンと上にあげたりする事だけだったが、それでもセバスチャンはこの授業を楽しんでいた。
 何故かはわからないけど、運動が変わる度にマイケル先生がいちいちピーと笛を吹いて「じゃあ、次はこの運動だ」と言うのがおもしろかった。それに、少しだけお父さんの事を思い出した。はりきっている時のマイケル先生は、どことなくお父さんに似ている気がした。
 午後の部の授業が終わると、マイケル先生は学校に戻る予定になっていた。町の教育規定でそう決まっているからだ。
 マイケル先生はセバスチャンの事が心配で、このままマリアが帰ってくるまで家にいようかなといつも思ったけど、一人で家にいれないと今後困る事があると知っているので、必ず時間通りに家を出て行った。
「じゃあ。私は学校に戻るから、危ない事をしないように」
「うん。ありがとーございました」
 マイケル先生はセバスチャンの方を見ながらうんと頷くと、家を出て行った。
 マイケル先生が学校に戻ってマリアが家に戻ってくる迄の1時間、セバスチャンはこの家に一人で過ごす事になった。一人でいると危ない気がするけど、この家の中ならほとんど感覚でどこに何があるのかわかるし、マリアと約束した「一人で家にいる時のルール」をちゃんと守っていたので大丈夫だった。

[一人で家にいる時のルール]

 その1. 家の外に出てはいけない。(庭までならOK)
 その2. なにか困った事があったら首にぶらさげているベルを鳴らす。(とても重要!)
 その3. のどがかわいたらいつもの所に飲み物が置いてある。但し飲みすぎてはダメ。(お腹がこわれるから)
 その4. トイレにいったらちゃんと水を流す。(よく忘れるから)
 ・・・

 他にもいっぱいあったけど、これだけ覚えていればとりあえず大丈夫だった。首からぶらさげている「お楽しみバック」には、今日のおやつも入っているし。マリアが帰って来るまでの間、セバスチャンは結構のんきに家の中の時間を楽しんでいた。
 セバスチャンはこれから何をしようと考えていたけど、やる事は大体決まっていた。
 マイケル先生が学校に戻ってから、10分経ってないぐらいに、家の中でアラームがこだました。それはマリアが夕方にセットしてあったもので、もうすぐ『チキュウミステリー』が始まるという合図だった。
 セバスチャンは思い出したかのように、授業で使っていたテーブルから回れ右をして歩き始めた。頭の中で20歩数えて手を伸ばすと、冷たい感触がしたので、庭の外に出る窓に辿り着いた事がわかった。
 窓を開けて、庭の入り口に置いてあるはずのスリッパを足の感覚で探し出して、器用に足に通した。庭に出て少し右側を歩くと、コツっと何かに当たった感触がした。その感触はセバスチャン用の椅子だとわかったので、向きを変えて、おしりからドーンと座りこんで一言「ふー」と言った。
 椅子に座ったセバスチャンは椅子の隣に置いてあるはずのラジオを手探りで探し始めた。そのラジオはカクカクの旧型の形をしてるので、手がラジオの角に当たって痛い思いをした事が何度かあった。
 ラジオを上手に見つけ出したセバスチャンは、ラジオの一番左端にある赤色のスイッチをガシャっと押した。そうすると、セバスチャン憧れのあの人の声が聞こえてきた。
「えー。今日も始まりました地球ミステリー。私は司会のポーリー博士です。今日の最初の話題は・・・」
 後は、『チキュウミステリー』に熱中するだけだった。首からぶら下げてある「お楽しみバック」からお菓子を取りだして、セバスチャンは優雅なひとときを過ごし始めた。
 『チキュウミステリー』は30分番組だった。番組が終わると同時にセバスチャンはラジオのスイッチをガシャっと切った。それと同時にセバスチャンの優雅なひとときも終わってしまった。
 セバスチャンは『チキュウミステリー』の後に始まるニュース番組には興味が持てなかった。誰々が死んだとか、酷い事故が起きたとか、戦争がどうだとかいう悲しい話題ばっかりで、聞くと嫌な気分になってくる。なんでこんな事をわざわざ放送しているのか、セバスチャンには理解できなかった。だから、ニュース番組が始まるとラジオを聞くのをやめて、色々な事を考えた。今日あった楽しかった事とか、大好きな人達の事とか、明日のおやつの事とか。
 夕方になった町並みはとても美しく、セバスチャンが座っている庭から見える歩道は、夕日が反射してキラキラと輝いていた。残念ながらセバスチャンにはこの美しい町並みを見る事ができなかったけど、それでもザワワと木が揺れる落ちついた音や、甘い花の匂いや、夕暮れで少し冷たくなった爽やかな風達がセバスチャンの気持ちをよくさせてくれた。
 セバスチャンが椅子に座って、黄昏ていると、家のドアがガチャっと開いて、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ただいま。セバスチャン元気にしてた?」
 それは、夕食の材料を片手で抱えて帰ってきたマリアの声だった。セバスチャンは嬉しくなって元気に言った。
「おかえり!おかあさん」

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南国特産

Author:南国特産

初めて小説を書きました。
もの凄くヘタですが、もしよろしければ読んでみてください。

感想等、お待ちしています。

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