映画化希望
本編

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2008年01月21日

■その1
 小さな田舎町の小さな家に住んでいるセバスチャンは今日も元気いっぱい。朝目覚めると、パジャマの裾をずりずり引きずりながら、いつものようにキッチンにやって来てこう言った。
「おはようお母さん。のどが渇いたミルクをちょうだい」
 セバスチャンの朝起きてから言うセリフはいつも同じだ。それがたとえどんなに寒い日でも、大雨が降っている日でも関係ない。決まって「ミルクをちょうだい」だ。
 お母さんと言われて振り返った女性の名前はマリア。マリアはエプロン姿で忙しそうにキッチンで何かを作っていたが、セバスチャンが起きてきたのに気付くと、冷蔵庫から冷たいミルクを取り出して、ガラスのコップにトクトク入れた。
「おはようセバスチャン。今日も元気いっぱいね」
 マリアはセバスチャンに微笑んで「はい」とミルクを手渡した。ミルクを受け取ったセバスチャンはゴクゴクと一気にミルクを飲み干した。毎日の事だけど、この飲みっぷりにはマリアはいつも感心していた。しかも、飲み終わった後の表情がおもしろい。
「ぷはー。ありがとう。お母さん」
 どこかのおじさんがビールを飲んだ後みたいに満面の笑みを浮かべたセバスチャンは、口のまわりにべっとり付いているミルクの事なんて全然気にしない様子で、間髪いれずにマリアに話しかけた。
「お母さん。今日もガターンの音で目が覚めたよ」
 マリアは朝食の準備をしながらセバスチャンと会話した。
「ガターンの音は新聞配達の音ね。私にはガタッにしか聞こえないけど・・・」
「でも、僕にはガターンだよ」
「そうね。セバスチャンにはガターンね」
「なんでお母さんにはガタッで僕にはガターンなの?」
 セバスチャンは不思議そうな顔をしながらマリアに質問した。いつもの事だけど、セバスチャンに不思議な顔をされるとマリアの顔はちょっぴり困った顔になる。なんて答えたらこの子は納得してくれるのだろう。
「うーん。そうねー・・・人はそれぞれ違うからガターンだったりガタッだったりするのかもしれないわね」
 好奇心旺盛な子供の質問に全て答えられる親などいない。マリアはなんて答えたらいいかわからなくて、適当な事を言ってみた。でも少しだけセバスチャンに悪い気がして、自然に顔が笑ってしまった。
「ふーん。人はそれぞれ違うからなんだ。」
 意外な事にセバスチャンが納得してくれたので、マリアはほっとした。このままセバスチャンに納得してもらおう。マリアは瞬時にそう思った。
「そうそう!それぞれ違うのよ」
 セバスチャンを無理やり納得させると、マリアは火で熱せられたアツアツのフライパンに卵を落とした。部屋中にジュワーっという音がこだまして、もくもくと煙が立ち込めてた。すぐにおいしそうな匂いが広がって、セバスチャンのおなかかギュルルとなった。
「もうすぐできるから。テーブルで待っててね」
 マリアはそう言うとセバスチャンをテーブルに座らせた。
テーブルの上には小さな花柄のついたクロスが敷いてあって、その上には花が1本さしてある花瓶が置いてあった。その花は部屋に入って来るさわやかな風でひらひらと揺れて、明るい太陽の光が生き生きと感じさせていた。
 だけど、そんな花の事よりセバスチャンの頭は朝ごはんでいっぱいだった。もう、お腹がギュルルと鳴って待ちきれない。おもわずゴクリと唾を飲み込んでしまった時、テーブルの上に料理が運ばれてきた。
「はい。できたわよ」
 お腹が減って泣きそうなセバスチャンの目の前に、突然いい匂いが立ち込めた。セバスチャンは匂いを嗅いですぐにわかった。大好きなハムエッグと焼きたてのパンだ。
「今日の朝ごはんはハムエッグだね」
「そうよ。セバスチャンはハムエッグ大好きでしょ」
「うん。大好きだよ」
 セバスチャンはにっこり笑った、本当に大好きな笑顔だ。マリアはこの瞬間がたまらなかった。これ以上の幸せなんて、この世にはないかもしれないと感じた。
「じゃあ、冷めないうちに食べなさい」
 セバスチャンは「はーい」と元気いっぱいに言うと、目の前のハムエッグを口いっぱいにほおばりだした。マリアはその様子を微笑ましく見ていたが、セバスチャンがまだ口の中にハムエッグが入っているうちから再び喋りだしたので、本当に落ち着きがない子だと呆れた。
「お母さん。昨日の『チキュウミステリー』のキーワードは『チキュウオンダンカゲンショウ』だったよ。それって何の事?」
 もぐもぐ言いながらハムエッグを食べているセバスチャンの口から、おおよそ想像できないような質問が飛び出してきたので、マリアは少しおもしろかった。
「うーん・・・それは地球が暑くなってみんなが困っちゃうって事よ」
 セバスチャンは不思議な顔をした。
「地球が暑くなるとなんでみんな困っちゃうの?」
 マリアは少し考えて、これならセバスチャンもわかってくれると閃いた。
「それは暑くなるとセバスチャンの大好きなアイスクリームが溶けてなくなっちゃうからよ。アイスクリームがなくなっちゃうとセバスチャンは困るでしょ」
「うん。とっても困る。えーと。アイスクリームは『ツメタイ』だよね?」
「そうね。アイスクリームは冷たいわね」
「今日は『アッタカイ』だよね」
「そうね。今日は暖かいわね」
 この町の今の季節はとても暖かく住み心地が良い。だからセバスチャンの言っている事は大正解だった。それどころか、セバスチャンはとても頭のいい子なので大体が大正解だった。だけど、そんなセバスチャンにもずっとわからない事があった。
「でも、僕にはいまだに『チキュウ』っていうのがよくわからないんだ」
 マリアはうーんと悩むと、なんとかセバスチャンの質問に答えようとしたがダメだった。
「私もセバスチャンと同じで地球の事はよくわからないわ」
「なんでよくわからないものに名前がついてるの?」
「うーん・・・そうね。人間はよくわからないものに名前をつけたがるものなのよ」
 セバスチャンはしばらく考えて、困った時によく言うセリフを言った。
「よくわからない事がよくわかったよ」
 そんな会話をしていたら、セバスチャンのテーブルの上にあったハムエッグはもう無くなっていた。セバスチャンの持っていたフォークがそれを教えてくれたので、いつもの様に朝の日課をする事にした。
「朝ごはんを食べたから朝の体操をしてくるよ」
 そう言われて、マリアはセバスチャンの顔をふと見てみた。すると、口のまわりがさっき飲んだミルクと、朝食のハムエッグでベトベトになっていた。
「あ!ちょっと待ちなさい。口の周りにミルクと卵の黄身がベットリ付いてるわよ」
 人間の顔がこんなにおかしく汚れてしまうものだろうか。それぐれいセバスチャンの顔はおもしろかった。セバスチャンには悪いけど、マリアは大笑いしながら口の周りを綺麗に拭き取った。
 セバスチャンはマリアが凄く笑っていたので、すねたように言った。
「じゃあ。今度こそ行ってくるよ。なんで、そんなに笑うんだよ。もう!」
 マリアは笑いをこらえながら言った。
「ごめん。ごめん。おもしろくて、つい笑っちゃった。うん。気をつけて行ってらっしゃい」
「はーい」
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2008年01月22日

■その2
 セバスチャンの座っていたテーブルから回れ右をして20歩程歩いたところに、庭に通じる大きな窓がある。その窓を開けて外に出ると草花の香りがする小さな庭があった。
 セバスチャンはその庭をとても気に入っていた。
 その理由のひとつめは家の中とは匂いが違って、やわらかい草花の香りがする事。セバスチャンはこの匂いが好きだった。
 そしてふたつめは、庭で朝の体操をしていると、近所のトムおじさんが話しかけてきてくる事だった。そんな理由もあってセバスチャンは朝の体操を絶対に欠かさなかった。そして、やっぱり今日もトムおじさんが話しかけてきた。
「おはようセバスチャン。今日はいい天気だね」
 それはちょうど、セバスチャンが足を屈伸している時だった。セバスチャンはトムおじさんが話しかけてきた事に気付き、足をピタっと止めて挨拶した。
「おはようトムおじさん。今日はいい天気だよ」
 トムおじさんに挨拶を済ますと、セバスチャンは朝の体操を再開した。それを見ていたトムおじさんは、体操っていうよりもヘンテコなダンスだなと思ったけど、その事はセバスチャンには言わず、楽しそうに朝の体操の様子を見ていた。
 トムおじさんはセバスチャンが生まれるずっと前から家の近所に住んでいる人だった。外見は小太りで背が低く、顔はやさしそうで、年齢は60歳くらいに見えた。短い足でヒョコヒョコ歩く姿がなんともユーモラスで、誰からでも好かれそうな楽しそうなおじさんだった。
 しかし、マリアによるとトムおじさんは1匹の猫と暮らしていて、結婚はしていないらしい。セバスチャンが「なんで結婚してないの?」と尋ねたら、マリアは「いい人なんだけど出会いがないのかしら」と答えていた。
「トムおじさんは今日もパンを買いにいくの?」
 セバスチャンにそう言われて、朝の体操を楽しそうに見ていたトムおじさんはハッとした。ヘンテコなダンスと思っていた事が知られるとまずいので、すぐに返事をした。
「ああ。そうだよ。あそこのパンは最高だからね。そういや、マイケル先生はまだ来ていないのかい?」
 トムおじさんの朝の日課は、近所のマザーズベーカリーに焼きたてパンを買いに行くだった。こうして毎日のようにセバスチャンと会うのは、その時間がちょうど重なっていた為だった。
「えーと・・・ドクターマイケルはもうちょっとしたら来ると思うよ」
「そうか。彼はいつも時間どおりに来るもんな」
 セバスチャンはにっこりと笑った。
「うん。ドクターマイケルはロボットみたいに正確なんだって、お母さんが言ってた」
 トムおじさんは話すととても気さくでいい人だけど、積極的に人に話しかけるタイプじゃない。セバスチャンとこうして毎朝話をしているのは、セバスチャンは普通の子供と少し違っていたからだった。
 トムおじさんが初めてセバスチャンの事を知った時、とても不憫だと思った。恐らくほとんどの人がそう思うだろう。でも、話をしてみるととても明るく元気な子供で、そんなふうにセバスチャンを見ていた自分を少し恥ずかしく思った。不憫だなんて思っているのは周りの人達だけで、それは本人にとって当たり前の事だったからだ。
それと、トムおじさんはセバスチャンの事を少し心配しているところがあった。こんないい子に何かあったらと常に思っていた。
「セバスチャン。私との約束は覚えているかい?」
「うん。家の外には一人で出ちゃダメ。覚えているよ。お母さんにも言われるもん」
 トムおじさんはにっこり笑った。
「そうか。セバスチャンは偉いな。いつか庭の外に出られたらいいのにな」
 セバスチャンは楽しそうに言った。
「うん。そしたら僕は『ウミ』っていうのに行ってみたいんだ」
 トムおじさんは少し眉間にシワを寄せて、セバスチャンに聞いた。
「海?君は海が好きなのかい?」
 セバスチャンは目を輝かせて話し出した。
「うん。ドクターマイケルが言っていたよ。『チキュウ』のほとんどは『ウミ』なんだって。『ウミ』はとても大きくて、僕の家よりもずっとずっと広いんだって。『ウミ』にいけば少し自分の事がわかると言ってたよ。僕にはよく意味がわからなかったけど、それでも行ってみたいんだ」
「そうか、マイケル先生が言うんだったら間違いないな」
「うん。間違いない。ちなみにドクターマイケルをマイケル先生って呼ぶと怒っちゃうよ。私はドクターだって。」
 トムおじさんは思わず笑ってしまった。こんな小さい子供に「ちなみに」と言われちゃったからだ。
「ははは。そうだね。今度から私も彼をドクターと呼ばないと」
 トムおじさんはにこやかに笑いながら、目の前の楽しそうなセバスチャンを見ていた。だけど、セバスチャンの笑顔があまりにも楽しそうなので、逆に悲しい感情がよぎってきた。そして、言ってもしょうがない事だけど、ついつい口から零れ落ちてしまった。
「君も目が見えるといいのにな」
 セバスチャンは目が見えなかった。生まれてから一度も。この世界を、この『チキュウ』を見たことがなかった。

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プロフィール

南国特産

Author:南国特産

初めて小説を書きました。
もの凄くヘタですが、もしよろしければ読んでみてください。

感想等、お待ちしています。

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