2037年12月31日
■あらすじ
とある田舎町に住むセバスチャンは、母親と2人で暮らしている、元気な男の子です。セバスチャンは大体の人と同じように、色々な人達と出会いながら、自分の望みを叶えようと人生を歩んでいきます。ところが、セバスチャンは生まれながらにして不思議な運命を背負っていました。もしかすると、そのせいで、人とは違う人生なのかもしれません。
セバスチャンがその運命に対してどう考え、また周りの人達がセバスチャンをどう思うかが、このお話のテーマです。悲しみ嘆いてしまうのか、個性や才能と信じるのか、結局、それを決めるのは自分自身しかいないのです。
( 『その1』から続けて見たい場合は、カテゴリーの『本編』をクリックしてください。
一話だけ見たい場合は、下記の目次からクリックしてください。 )
■目次
------------------------------------------------------------
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その15
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とある田舎町に住むセバスチャンは、母親と2人で暮らしている、元気な男の子です。セバスチャンは大体の人と同じように、色々な人達と出会いながら、自分の望みを叶えようと人生を歩んでいきます。ところが、セバスチャンは生まれながらにして不思議な運命を背負っていました。もしかすると、そのせいで、人とは違う人生なのかもしれません。
セバスチャンがその運命に対してどう考え、また周りの人達がセバスチャンをどう思うかが、このお話のテーマです。悲しみ嘆いてしまうのか、個性や才能と信じるのか、結局、それを決めるのは自分自身しかいないのです。
( 『その1』から続けて見たい場合は、カテゴリーの『本編』をクリックしてください。
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■目次
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その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その15
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2008年07月05日
夏が終り、外の空気が少し肌寒くなってきた頃、セバスチャンはお父さんのお墓参りに行くことになった。
セバスチャンはお父さんの事をあまり覚えていなかった。お父さんが死んだのは、今から4年前、セバスチャンがまだ5歳の時だった。当時、セバスチャンはお父さんが死んだ事を理解できなかった。ひょっとすると今でも完全には理解できてないかもしれない。そもそも、セバスチャンは生まれてから一度も、自身を含めて人間の姿を見たことがない。そんなセバスチャンにとって『ニンゲン』は声だけの存在で、人が死ぬという事はどうゆう事なのかわかるはずもなかった。
ただ、ある時からお父さんの声を聞けなくなってしまったのは確かだった。その時からお母さんは少し元気を無くして、家の中は少しだけ静かになった。人が死ぬという事はとても嫌な事だし、大事なものを失ってしまう事だと、セバスチャンは時間と共に感じていった。
セバスチャンのお父さんのお墓は、セバスチャンの家から離れた場所にあった。とても歩いて行ける距離じゃないので、お墓参りの時は毎回、親戚のジーンおばさんの車で行っていた。
ジーンおばさんの車は持ち主の体格に似合わず、とても小さくて可愛らしい車だった。ジーンおばさんがその車に乗ると、とても窮屈そうに見えてしまうけど、当の本人は「けっこう快適よ」と言っていた。
だけど、ジーンおばさんは大胆な性格の持ち主で運転が凄く荒かった。ある時、車を運転していたジーンおばさんはカーブを曲がらずに、まっすぐ畑に突っ込んで、植えてあったリンゴの木に突撃した。その時、ジーンおばさんは自分の車はペシャンコなのに、衝撃で落ちてきたリンゴを拾って「赤くて美味しそう。このリンゴ、パイにしたら最高ね」と楽しそうに言ったらしい。
マリアはジーンおばさんの武勇伝を沢山知っていて、少しだけ恐れていた。だから、運転手をジーンおばさんの代わりに夫のスコットおじさんに頼んでいた。
スコットおじさんは、セバスチャンのお父さんのお兄さんで、ジーンおばさんとは対照的に物静かな人だった。その性格のせいもあって、スコットおじさんとセバスチャンはあまり話をした事がなく、そんなに仲良しじゃなかった。だけど、実はセバスチャンの家族の事を、陰ながら応援している優しい人だった。
その日の朝、セバスチャンの家の前でプゥプゥと車のクラクションの音が鳴った。マリアが窓を開けて外を見てみると、その車には、スコットおじさんと窮屈そうなジーンおばさんが乗っていた。マリアは家から出て、車に近づいて挨拶をした。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
運転席に座っていたスコットおじさんはにっこり笑って言った。
「おはよう。もう、準備はいいかい?」
マリアは頷いた。
「はい。すぐに出発できます。今、セバスチャンを連れて来るから、もうちょっと待ってて下さい」
セバスチャンはイスに座ってマリアが戻ってくるのを待っていた。今日はいつもとは違う格好で、黒いジェケットと黒いズボン姿で、寝癖もしっかりセットされていたので、少し凛々しく見えた。この洋服は、マリアが特別の日の為に準備したものだったけど、セバスチャンは動きずらいから嫌いだった。
マリアが家に戻ってきてセバスチャンに言った。
「セバスチャン。もう車が来たから出発するわよ」
セバスチャンは不安そうな顔でマリアに言った。
「うん。やっぱり『クルマ』ってヤツに乗らないとダメ?」
マリアは少し困った顔になった。
「うん。お父さんのお墓は遠いから、車じゃないと無理なの」
「あの、ガタガタって感じにやっぱりなるかな?」
「うん。なると思う、でも今日はスコットおじさんが運転してくれるから、前よりは大丈夫だと思うよ」
セバスチャンは少しほっとした。セバスチャンは車に乗るのが苦手だった。地面がガタガタ振るえるのが怖くて、乗っている間は安心できなかった。マリアはそれを知っていて、車に乗るときはセバスチャンが慣れてくるまで、手を握ってあげていた。
「大丈夫。私がちゃんと手を握ってあげるし、セバスチャンの好きな音楽も流すから、お話しながら乗ってたら、あっという間に着いちゃうわよ」
セバスチャンは少し暗い声で言った。
「うん。わかったよ・・・。じゃあ、行くよ」
セバスチャンの不安な表情はまだ消えていなかったけど、2人は車に乗り込んだ。車に乗り込んだセバスチャンの様子を見て、ジーンおばさんは楽しそうに話しかけた。
「おはよう、セバスチャン。今日はとってもいい天気よ。こんな天気で、天国のお父さんも喜んでると思うわ。もし、おなかが減ったらおばさんに言ってちょうだい。今日はいーっぱい、セバスチャンの為にお菓子を持ってきたから。みんなで食べながら楽しく行きましょ」
セバスチャンはジーンおばさんの声を聞いて、少し明るくなった。ジーンおばさんの声は、不思議と人を明るくさせる力があった。
「うん。ありがとうおばさん。僕がお菓子を食べすぎても今日だけは許してくれるよね?」
セバスチャンがそう言ったので、車内に笑いがこだました。
車が出発する時、ガタガタと震えだしてセバスチャンは不安になった。そんなセバスチャンを勇気付けるように、マリアが約束どおりに手を握ってあげた。セバスチャンが乗った小さな車はブロロと音を立てながら、お墓に向かって走り始めた。
お墓に向かう途中、車内ではセバスチャンの好きな音楽が流れていた。ジーンおばさんはスコットおじさんに先週見たサスペンスの内容をずっと話していて、スコットおじさんは車を運転しながら、静かにそれを聞いていた。セバスチャンとマリアは後ろの席で、前やったジェシカのお誕生日の話で盛り上がっていた。
「ジェシカがね。プレゼント気に入って、毎日履いてるって言ってたよ」
マリアはそれを聞いて喜んだ。
「ほんと?じゃあ、大成功だったね」
「うん。大成功だった」
ジーンおばさんは2人の話を聞いていて、後ろに振り返り、話に参加してきた。
「あら?ジェシカちゃんのお誕生日をやったの?」
マリアが答えた。
「はい、そうなんですよ。ジェシカのお父さんが、その日都合が悪くて、代わりに私達がしてあげる事になったんですよ」
セバスチャンはそれに続いた。
「そうなんだ。ジェシカはとっても喜んで、しかも一緒にお泊りもしたんだよ」
ジーンおばさんが言った。
「まあ。それは楽しかったね。ジェシカちゃんはかわいくて、いい子だもんね。将来、セバスチャンのお嫁さんに来てくれたらいいのにね」
ジーンおばさんはそう言うとガハハと笑った。マリアも「まだ、早いですよ」といいなが楽しそうに笑った。 セバスチャンは『オヨメサン』の意味がわからなかったけど、
「うん!」
と元気よく答えた。
セバスチャンのお父さんのお墓は、小高い丘の上にあった。お墓の周りには手入れされた芝生が敷き詰められていて、周辺に深緑の山々がそびえていて美しい光景だった。
スコットおじさんは駐車場に車を止めると「さあ、行こうか」と一言言った。
セバスチャンは車から降りて、マリアと手を繋いで歩き始めた。お父さんの眠っているお墓に向かう途中の道は、爽やかな風が吹いていて、まるでセバスチャン達を迎え入れているみたいだった。
セバスチャンは歩いている間、不思議に思っていた。ついさっきまで、マリアもジーンおばさんも楽しそうに話をしていたのに、お墓についてからは一言も喋らなかったからだ。何故かはよくわからなかったけど、セバスチャンもこの間は一言も喋らなかった。
マリアはピタっと足を止めると、セバスチャンに言った。
「セバスチャン。お父さんのお墓に着いたよ」
「うん」
マリアはセバスチャンをお墓の前に立たせて、ポツリと言った。
「ここにお父さんが眠っているのよ」
セバスチャンにはお墓がどんなものなのか、わからなかったけど、何となくこの場所を寂しく感じた。
「うん。もう・・・起きてこないんだよね」
「うん・・・」
マリアはお墓を静かに見ていた。それは、死んでしまった夫に何か話しかけている様に見えた。それはきっと、自分自身の事、セバスチャンの事、そしてこれからの事、ひょっとすると、最近セバスチャンにジェシカという友達ができた事も言っていたかもしれない。マリアはこの時、ほんの少しだけ涙を浮かべていた。
セバスチャンはお父さんの事をあまり覚えていなかった。お父さんが死んだのは、今から4年前、セバスチャンがまだ5歳の時だった。当時、セバスチャンはお父さんが死んだ事を理解できなかった。ひょっとすると今でも完全には理解できてないかもしれない。そもそも、セバスチャンは生まれてから一度も、自身を含めて人間の姿を見たことがない。そんなセバスチャンにとって『ニンゲン』は声だけの存在で、人が死ぬという事はどうゆう事なのかわかるはずもなかった。
ただ、ある時からお父さんの声を聞けなくなってしまったのは確かだった。その時からお母さんは少し元気を無くして、家の中は少しだけ静かになった。人が死ぬという事はとても嫌な事だし、大事なものを失ってしまう事だと、セバスチャンは時間と共に感じていった。
セバスチャンのお父さんのお墓は、セバスチャンの家から離れた場所にあった。とても歩いて行ける距離じゃないので、お墓参りの時は毎回、親戚のジーンおばさんの車で行っていた。
ジーンおばさんの車は持ち主の体格に似合わず、とても小さくて可愛らしい車だった。ジーンおばさんがその車に乗ると、とても窮屈そうに見えてしまうけど、当の本人は「けっこう快適よ」と言っていた。
だけど、ジーンおばさんは大胆な性格の持ち主で運転が凄く荒かった。ある時、車を運転していたジーンおばさんはカーブを曲がらずに、まっすぐ畑に突っ込んで、植えてあったリンゴの木に突撃した。その時、ジーンおばさんは自分の車はペシャンコなのに、衝撃で落ちてきたリンゴを拾って「赤くて美味しそう。このリンゴ、パイにしたら最高ね」と楽しそうに言ったらしい。
マリアはジーンおばさんの武勇伝を沢山知っていて、少しだけ恐れていた。だから、運転手をジーンおばさんの代わりに夫のスコットおじさんに頼んでいた。
スコットおじさんは、セバスチャンのお父さんのお兄さんで、ジーンおばさんとは対照的に物静かな人だった。その性格のせいもあって、スコットおじさんとセバスチャンはあまり話をした事がなく、そんなに仲良しじゃなかった。だけど、実はセバスチャンの家族の事を、陰ながら応援している優しい人だった。
その日の朝、セバスチャンの家の前でプゥプゥと車のクラクションの音が鳴った。マリアが窓を開けて外を見てみると、その車には、スコットおじさんと窮屈そうなジーンおばさんが乗っていた。マリアは家から出て、車に近づいて挨拶をした。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
運転席に座っていたスコットおじさんはにっこり笑って言った。
「おはよう。もう、準備はいいかい?」
マリアは頷いた。
「はい。すぐに出発できます。今、セバスチャンを連れて来るから、もうちょっと待ってて下さい」
セバスチャンはイスに座ってマリアが戻ってくるのを待っていた。今日はいつもとは違う格好で、黒いジェケットと黒いズボン姿で、寝癖もしっかりセットされていたので、少し凛々しく見えた。この洋服は、マリアが特別の日の為に準備したものだったけど、セバスチャンは動きずらいから嫌いだった。
マリアが家に戻ってきてセバスチャンに言った。
「セバスチャン。もう車が来たから出発するわよ」
セバスチャンは不安そうな顔でマリアに言った。
「うん。やっぱり『クルマ』ってヤツに乗らないとダメ?」
マリアは少し困った顔になった。
「うん。お父さんのお墓は遠いから、車じゃないと無理なの」
「あの、ガタガタって感じにやっぱりなるかな?」
「うん。なると思う、でも今日はスコットおじさんが運転してくれるから、前よりは大丈夫だと思うよ」
セバスチャンは少しほっとした。セバスチャンは車に乗るのが苦手だった。地面がガタガタ振るえるのが怖くて、乗っている間は安心できなかった。マリアはそれを知っていて、車に乗るときはセバスチャンが慣れてくるまで、手を握ってあげていた。
「大丈夫。私がちゃんと手を握ってあげるし、セバスチャンの好きな音楽も流すから、お話しながら乗ってたら、あっという間に着いちゃうわよ」
セバスチャンは少し暗い声で言った。
「うん。わかったよ・・・。じゃあ、行くよ」
セバスチャンの不安な表情はまだ消えていなかったけど、2人は車に乗り込んだ。車に乗り込んだセバスチャンの様子を見て、ジーンおばさんは楽しそうに話しかけた。
「おはよう、セバスチャン。今日はとってもいい天気よ。こんな天気で、天国のお父さんも喜んでると思うわ。もし、おなかが減ったらおばさんに言ってちょうだい。今日はいーっぱい、セバスチャンの為にお菓子を持ってきたから。みんなで食べながら楽しく行きましょ」
セバスチャンはジーンおばさんの声を聞いて、少し明るくなった。ジーンおばさんの声は、不思議と人を明るくさせる力があった。
「うん。ありがとうおばさん。僕がお菓子を食べすぎても今日だけは許してくれるよね?」
セバスチャンがそう言ったので、車内に笑いがこだました。
車が出発する時、ガタガタと震えだしてセバスチャンは不安になった。そんなセバスチャンを勇気付けるように、マリアが約束どおりに手を握ってあげた。セバスチャンが乗った小さな車はブロロと音を立てながら、お墓に向かって走り始めた。
お墓に向かう途中、車内ではセバスチャンの好きな音楽が流れていた。ジーンおばさんはスコットおじさんに先週見たサスペンスの内容をずっと話していて、スコットおじさんは車を運転しながら、静かにそれを聞いていた。セバスチャンとマリアは後ろの席で、前やったジェシカのお誕生日の話で盛り上がっていた。
「ジェシカがね。プレゼント気に入って、毎日履いてるって言ってたよ」
マリアはそれを聞いて喜んだ。
「ほんと?じゃあ、大成功だったね」
「うん。大成功だった」
ジーンおばさんは2人の話を聞いていて、後ろに振り返り、話に参加してきた。
「あら?ジェシカちゃんのお誕生日をやったの?」
マリアが答えた。
「はい、そうなんですよ。ジェシカのお父さんが、その日都合が悪くて、代わりに私達がしてあげる事になったんですよ」
セバスチャンはそれに続いた。
「そうなんだ。ジェシカはとっても喜んで、しかも一緒にお泊りもしたんだよ」
ジーンおばさんが言った。
「まあ。それは楽しかったね。ジェシカちゃんはかわいくて、いい子だもんね。将来、セバスチャンのお嫁さんに来てくれたらいいのにね」
ジーンおばさんはそう言うとガハハと笑った。マリアも「まだ、早いですよ」といいなが楽しそうに笑った。 セバスチャンは『オヨメサン』の意味がわからなかったけど、
「うん!」
と元気よく答えた。
セバスチャンのお父さんのお墓は、小高い丘の上にあった。お墓の周りには手入れされた芝生が敷き詰められていて、周辺に深緑の山々がそびえていて美しい光景だった。
スコットおじさんは駐車場に車を止めると「さあ、行こうか」と一言言った。
セバスチャンは車から降りて、マリアと手を繋いで歩き始めた。お父さんの眠っているお墓に向かう途中の道は、爽やかな風が吹いていて、まるでセバスチャン達を迎え入れているみたいだった。
セバスチャンは歩いている間、不思議に思っていた。ついさっきまで、マリアもジーンおばさんも楽しそうに話をしていたのに、お墓についてからは一言も喋らなかったからだ。何故かはよくわからなかったけど、セバスチャンもこの間は一言も喋らなかった。
マリアはピタっと足を止めると、セバスチャンに言った。
「セバスチャン。お父さんのお墓に着いたよ」
「うん」
マリアはセバスチャンをお墓の前に立たせて、ポツリと言った。
「ここにお父さんが眠っているのよ」
セバスチャンにはお墓がどんなものなのか、わからなかったけど、何となくこの場所を寂しく感じた。
「うん。もう・・・起きてこないんだよね」
「うん・・・」
マリアはお墓を静かに見ていた。それは、死んでしまった夫に何か話しかけている様に見えた。それはきっと、自分自身の事、セバスチャンの事、そしてこれからの事、ひょっとすると、最近セバスチャンにジェシカという友達ができた事も言っていたかもしれない。マリアはこの時、ほんの少しだけ涙を浮かべていた。